2004年9月23日(木)「しんぶん赤旗」
これまで日本の安保理常任理事国入りに“慎重”といわれてきた小泉純一郎首相が一転して強い“意欲”を示したことをめぐり、その狙い、思惑が注目されています。
一九九四年の村山内閣以来、常任理事国入りが日本の外交目標とされながら、唯一、国連でそれにふれなかったのが二〇〇二年九月の小泉首相の演説でした。
小泉氏は宮沢内閣の郵政相だった一九九三年七月、安保理改革をめぐり「武力行使を伴うような貢献、協力を日本としてはできない」と発言。九四年八月には与党三党の「国連常任理事国入りを考える会」の会長として、常任理事国入りに向けた政府の動きをけん制していました。
ところが今回は「時代が大きく変わっている。日本の役割を国際社会が求めている。時代についていけない人が、小泉の考え方が変わったと勘違いしているのでは」(二十日、同行記者団に)とうそぶくなど、積極的な姿勢を見せています。
二〇〇二年以来、この二年間に大きく変わったことといえば、国内では首相自身が憲法改定を公言し、国際的には米ブッシュ政権の先制攻撃戦略を支持して、地球規模の日米同盟を確認したこと。今回の首相の演説には、これらの“変化”が色濃くにじんでいます。
常任理事国入りについて首相は演説前にも「現行憲法の枠内だ」と繰り返してきました。ところが演説で憲法についてはついに一言も触れずじまい。国連憲章四二、四七条が定める常任理事国の軍事的役割と、武力の行使・威嚇を禁ずる憲法九条との矛盾について首相の考えは不明確なままです。この間米政府高官が日本の常任理事国入りと憲法九条改定をからめる発言を繰り返しており、それをてこに日本に軍事的役割を果たさせようという狙いがあからさまです。
首相は「わが国の果たしてきた役割は、安保理常任理事国となるにふさわしい確固たる基盤となる」とのべる一方、日本がおこなった「不断の努力」として「イラクとアフガニスタンにおける活動」をあげました。
しかし日本が両国でやったのは、自衛隊を派兵し、米国が行った無法な戦争に加担・協力すること、まさに「地球規模の日米同盟」を地で行く活動です。イラク戦争の「大義」が国際的に問われているなかでこれを“成果”と誇る感覚を疑います。
今回の演説は「国連新時代」との表題がつけられています。日本が常任理事国になったもとで新しい国連を、とのふれこみでしょうが、その具体的な姿は演説からはまるで見えません。むしろ透けて見えるのは、国連のあらゆる場面で米国の代弁者となり、アフガニスタンやイラクに自衛隊を派兵したように、全世界で米軍とともに“軍事的役割”を果たそうという危険な意図ばかりです。
山崎伸治記者
「貧困こそが今日の世界で最悪の大量破壊兵器だ。何度繰り返せばいいのか」―国連総会一般討論に先立って二十日に国連本部で開かれた飢餓・貧困問題についての各国首脳会議でブラジルのルラ大統領は訴えました。
百九十一の国連加盟国の圧倒的多数にとって、経済のグローバリゼーション(地球規模化)のもとで拡大する南北格差、世界の十数億人を襲う極貧こそ、国連を軸とする国際社会が取り組むべき最大の課題です。ルラ演説は、その声を代弁しています。
その国連の演壇で小泉首相は、「国際の平和と安全に主要な役割を果たす意思と能力を有する国々は常に安保理の意思決定過程に参加」すべきだと述べ、常任理事国入りの意思を表明しました。世界の目には、どう映るのか。
「ブッシュ米大統領が国連でテロ問題ばかり強調することを、多くの国は苦々しく思っている。そのなかで小泉首相は『日本が、日本が…』と自分の国のことばかり言って常任理事国入りを訴えた。異様な光景だった」―国連本部で取材を続ける本紙、遠藤誠二記者は語ります。
米誌『ニューズウィーク』日本版九月二十九日号でデーナ・ルイス記者も、日本の常任理事国入り表明に対して「各国が向ける冷ややかな目」を紹介しています。「日本のチャンスを広げるような政治的変化は起きていない。(常任理事国入りが)近づいたと考えるのは正気のさたではない」と、元国連当局者が語ったといいます。
日本が常任理事国入りするには、国連憲章を改定する必要があります。それには、国連総会で三分の二の加盟国が賛成し、かつ現常任理事国すべてを含む三分の二の国が批准する必要があります(国連憲章一〇八条)。
常任理事国五カ国のうち、日本の常任理事国入りに一番慎重な態度をとってきたのが中国です。同国外務省の孔泉報道官は二十一日、「責任ある国として役割を発揮するには歴史問題に対して明確な認識が必要だ」と述べ、姿勢をより鮮明にしました。
日独伊三カ国による侵略戦争の歴史の教訓に立って結成されたのが、今日の国連です。第二次大戦を指導したA級戦犯をまつる靖国神社への参拝を繰り返すなど、侵略の歴史への反省を欠いた指導者を抱える国に、国連の主要責任を担えるのかとの根源的な問いです。
ブッシュ米政権にしたところで、口先では日本の常任理事国入りに賛意を示すものの、国連そのものへの軽視、蔑視(べっし)が基本政策です。蔑視する組織の「改革」に熱意がないのは当然です。
国連総会では毎年、日本の経済援助が欲しい一部の諸国が日本の常任理事国入りに賛成表明し、日本代表部がその数を数える光景が繰り返されます。しかし、国際法秩序を破壊する米国に「何でも賛成」する日本を常任理事国にすれば、米国に常任理事国の席を二つ与えるようなもので、国連を破壊するだけだという見方は、ほぼ常識化しているといえるでしょう。
坂口明記者