2004年9月26日(日)「しんぶん赤旗」
「これだけの人が九条のことを真剣に考えていることがわかって安心しました。地域で頑張る力にします」。整理券の締めきりで入場できず、こう語って会場を去った人も出た「九条の会」発足記念京都講演会(二十五日、京都市・京都産業会館)。大江健三郎、奥平康弘、鶴見俊輔の三氏が講演し、第一、第二会場とも満員の二千人の聴衆で埋まりました。
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開場の三時間前から参加者がつめかけ、会場の前には数百メートルの行列。開会十数分前には入場整理券が切れ、入場できなかった人は数百人にのぼりました。「(九条の会は)最初は九人だったが、反響が大きくなってきている」(一般紙記者)との声があがりました。
講演で大江氏は、憲法学者やフランスの哲学者の言葉から「想像力」という問題を提起。「想像力とは、与えられたイメージをつくりかえて新しい現実をつくる活力のビジョンだ。憲法の意思を使って現実をつくりかえ、憲法の規範に近づけていくことだ」と紹介しました。これからの自らの仕事も九条を守るうえで「みなさんへの親密な手紙になるよう心がけたい」とのべました。
奥平氏は、九条改憲論が国連常任理事国入りなど本来関係ないこととからめて、人々を混迷させていると指摘。今年起きた二つのビラ配布弾圧事件を例に、こうした動きとたたかうためにも憲法は生かせるとのべ、「改憲勢力がいうように、古くさいことは少しもない」と強調しました。
鶴見氏は、息子を戦争に送り出すか、それとも逃がすかという問題に直面した三人の母親の実例を現代に生かせる「寓話(ぐうわ)」として紹介しました。
インターネットで会場を探してきた大学生、新聞のチラシをみた予備校生と高校生の兄弟など若者の姿も目立ちました。
真宗大谷派(東本願寺)元教学研究所長の児玉暁洋さんは、「九条は人間の生き方の問題だと、三人の方がそれぞれ語ってくれたと思う。憲法は文化の基本であるということも。きょうの集まりが新しい出発点になることを期待します」と語っていました。
講演会後、京都産業会館内で記者会見した大江健三郎氏は、「聴衆の方と憲法九条を守っていこうという思いを共有でき、望外の幸せ。これを(全国で)続けていけば、憲法を変えようという人も無視できないのではないか」と感想を語りました。
「憲法を守ろうといういろんな人たちのいろんな考え方が集まって交流するような場になるようにと、『九条の会』をつくったが、実際にはじめてみて、少しずつ動いている」とのべた大江氏は、「これだけの人が集まってくださって、その人たちが憲法改正に反対している。ちょっと考えが違うが話を聞いてやろうという感じではないんです。九条を守っていく側の人間として話を聞いてくれている。そういう人たちが集まってくださった」と指摘。「そういう場をつくることができた。これから何回か講演会をやるが、かなりの数の人が集まるという気持ちを持ち始めました」と語りました。