2004年10月1日(金)「しんぶん赤旗」
ニューヨーク原油が一時、一バレル=五〇ドル台に乗せるなど、原油の高騰が、世界経済の不安要因になっています。原油の高騰は投機色の強いものですが、日本国内では早くも原油高止まりを見込んで、製品価格に転嫁する動きが広がっています。国民生活にとっても大問題です。
|
石油情報センターによると、九月の灯油価格(十八リットル)は全国平均で千九十二円、今年一月に比べ、20%近い値上がりです。
全国でもいち早く、暖房用灯油の需要期を迎える北海道。九月に入って、灯油一リットルあたり原価が四円上がりました。「このまま原油高騰が続けば十円くらいのアップになるかもしれない」(小売り関係者)。
一世帯当たり年間二千リットルの灯油を消費する北海道民には年間二万円の負担増になります。
北海道では、燃料費などの補てんとして公務員に支払われる「寒冷地手当」も、今年から四割近くカットされようとしており、家計に追い打ちとなりそうです。
札幌市に住む三国京子さん(49)は三人家族。月に三百リットルの灯油を使います。「夜は暖房をつけっぱなしにせざるを得ない季節を控え、(一リットル当たり十円上がると)月三千円以上負担が増え、大変。何かを我慢しなければならなくなる」と不安そうに話します。
灯油の在庫も昨年の約55%、例年の七割程度に留まっています。「行政は安定供給の確保と便乗値上げをさせない対策をとってほしい」と小売り関係者はいいます。
電気料金も、北海道電力ではすでに十月から一キロワット当たりの単価が二十五銭アップ。三カ月ごとに燃料価格と為替変動を自動的に反映させる「燃料費調整制度」によるもので、九月までの原油高騰分は、来年一月以降に反映されます。
航空運賃も、航空各社は来年一月をめどに欧州線旅客運賃を5%値上げする予定。国内線についても「値上げを含めた対応策が必要」(全日本空輸)としています。
|
全日本トラック協会が実施した六月の全国調査では、今年二月から六月までの軽油値上げは一リットル約四円でした。静岡県トラック協会によると、県下では六月以降にも三―四円値上げされており、さらに十一月に向けて四円の値上げ要請があるといいます。運転手の人件費、高速道路代金などを含むトラックの運賃コストのうち、燃料費は22―23%を占め、軽油価格値上げは、収益に大きな打撃を与えています。
静岡県トラック協会の曽根修一専務理事は「荷主による一方的な低価格決定が横行している。とても運送料の値上げを荷主に転嫁できる状況にない」と指摘。「業者はいまでも半分くらいが赤字経営だ。このまま上がると年を越せない業者が続出するだろう。とにかく早く下がってほしい」といいます。
中小金属加工業者が集まる東京都大田区。金属加工業者間では「(自動機械などに使う)切削油の価格値上げはまだない」といいます。しかし、切削油などの加工油製造の大手メーカーは「すでに七―八月に、品物によって一リットル=五―十五円ほどの値上げを(卸売業者などの)取引先にはお願いした」としています。
大田区で樹脂材料の機械部品を加工する業者は「材料価格は六―七月で10%上がっている。材料価格の値上がりを工賃に上乗せして取引先に請求できる品物と出来ない品物があり、出来ない場合は実質的に工賃の値下げになっている」といいます。
「原油の需給状況からみると異常な高さだ」。石油業界関係者は、こう指摘します。世界の原油価格の指標価格のニューヨーク市場のWTI原油は、年初から五割近く跳ね上がり、一時一バレル=五〇ドルを突破しました。
原油価格の決定は、メジャー(国際石油資本)や石油輸出国機構(OPEC)が決定権をもっていた時代と違い、市場動向で決定されています。
原油の需給関係は、中国の成長や米国の「経済回復」によって逼迫(ひっぱく)しています。しかし、価格高騰の主役は投機です。日本エネルギー経済研究所の小森吾一研究員は、「(原油価格の)十ドルから十五ドルは投機で上がっています」といいます。
アメリカの金融資本や機関投資家などの国際的投機資金が原油市場に流れ込んでいるのが原因。「五割も値上がりする市場は、いま原油先物しかありませんよ」と先の石油業界関係者はいいます。
国際的投機集団にもうけの場を提供した火付け役は、ブッシュ米政権によるイラクへの侵略戦争です。世界の油田地帯での戦争とテロの連鎖。北部でのパイプラインが爆破され、国内治安は泥沼化しています。同国の原油生産は日量二百四十万バレル程度。依然として戦争前の日量二百八十万バレルを下回っています。投機集団は中東情勢を投機の対象にして大もうけを上げているのです。
さらに、ロシアの石油大手ユコスの経営危機、ナイジェリアの紛争、そしてアメリカを襲ったハリケーンによってメキシコ湾の生産活動が大幅に停止したことも原油高騰に追い打ちをかけています。
|
原油価格の世界的指標 原油価格の代表的指標は(1)ニューヨーク商品取引所のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物価格(2)欧州向け原油の価格指標となるイギリスIPE(国際石油取引所)のブレント先物(3)アジア向けの中東ドバイ原油・オマーン原油のスポット(現物)価格―があります。WTI先物価格の値動きが、そのほかの指標の基準となっています。
中東産油国からの日本向け原油は、ドバイ・オマーン原油のスポット価格を基準にして決まります。