日本共産党

2004年10月5日(火)「しんぶん赤旗」

海外派兵を本来任務に

自衛隊の大転換

「安保・防衛懇」報告書


 小泉純一郎首相の私的諮問機関である「安全保障と防衛力に関する懇談会」が四日に提出した報告書は、海外派兵を本来任務とする自衛隊への転換を提唱し、それを「自衛の手段」として合理化する議論を前面に打ち出しました。こうした大転換の背景には、何があるのでしょうか。


米先制攻撃戦略に呼応し日米同盟を強化

 政府・防衛庁は、年内を期限に、新たな「防衛計画の大綱」を策定する作業を進めています。今回の報告書は、新大綱に反映されることになります。

 現大綱(一九九五年十一月、閣議決定)の基本になったのは、前年に提出された首相の私的諮問機関「防衛問題懇談会」報告書でした。大綱改定という転換を狙う報告書としては十年ぶりです。

 「2001年9月11日、安全保障に関する21世紀が始まった」―。報告書本文冒頭の一節です。

 ブッシュ米政権は、同時多発テロを受け、テロリストと大量破壊兵器との結びつきを最大の「脅威」と規定。二〇〇二年九月発表の米国家安全保障戦略で先制攻撃戦略を公然と打ち出しました。

 この米戦略の「変革」に対応するためにまとめたのが、今回の報告書です。

 報告書は、日本がとるべき安全保障戦略の二大目標として、「日本防衛」と並んで「国際的安全保障環境の改善」を提起しています。

 報告書は、「国際的安全保障環境の改善」を実現する手法として、「同盟国である米国との協力」を重視。「卓越する国際的活動能力を持つ米国との適切な協力を考えることは、きわめて有効な手段である」として、日米共同作戦の地球規模での拡大を強調しています。それを可能にするため、アジア太平洋地域での共同作戦体制を打ち出した安保共同宣言(九六年)に続く新たな「安保共同宣言」の策定を提唱しています。

「脅威の予防」で派兵を合理化

 報告書は、海外派兵を合理化するために、「外側での脅威の予防」が重要だとして、海外派兵も「重要な自衛の手段たり得る」として、「自衛」の概念の拡大を打ち出しました。

 その延長線上として報告書は、在外邦人や多国籍企業、海上交通路(シーレーン)の防衛を「日本の安全保障に直結する任務」として位置付けました。

 その背景には、米国の要求に応えインド洋やイラクへの自衛隊派兵を拡大するなかで、「自衛隊員が(攻撃を受けて)死んでしまった場合、これがアメリカのためだとは国民に説明できない」(政府高官)という苦しい事情があります。

 国民の「米国いいなり」批判をかわす上でも、海外派兵を日本の国益との関係で説明する必要に迫られていました。

 自衛隊の整備目標として、従来の「基盤的防衛力」構想に代わる「多機能弾力的防衛力」構想も打ち出しました。自衛隊の建前である「日本防衛」だけでなく、海外派兵などへの迅速対応を可能にするところに狙いがあります。そのために▽教育訓練体制の整備▽速やかな展開を実施しうるような新たな部隊の待機態勢▽長距離・大量の輸送機能の充実を提起しています。

 日本には、満蒙(中国の満州および蒙古地方を一体とした地域)を「生命線」と叫び、アジア侵略に乗り出していった歴史があります。

 海外権益防衛のための日米共同作戦を「重要な自衛の手段」と位置付け、当然視する議論は、米国の先制攻撃戦略を支えるもので、かつての侵略戦争の歴史をかえりみない危険な主張です。

戦争国家づくり憲法改悪も視野に

 報告書では、海外派兵に加え、有事法制に基づく米軍の戦争への国をあげての参加、米国の先制攻撃戦略を補完する「ミサイル防衛」推進などのために“戦争国家づくり”を提言しています。

 「省庁をまたぐ統合的な意思決定・連係」「国家緊急事態における待ったなしの意思決定」の重要性を指摘。「内閣総理大臣のリーダーシップ」を強調しています。

 その上で、(1)偵察衛星の能力向上や機密情報漏えいに関する罰則の強化など、軍事情報能力の強化(2)安全保障会議を意思決定の中枢機関にするための抜本的強化――などを挙げています。

 一方、地方自治体や民間については、戦時体制づくりを進める上で、「地方自治体を含む公的組織の協力、さらには民間の協力も必要になる」としています。さらに、「新たな防衛力の体制」の一部として、国民の「救援」を口実に、自治体や自主防衛組織の動員を挙げ、平時からの訓練参加にも触れています。

 また、軍事技術の研究開発にあたって、「産学官の連携の強化」を挙げ、学術機関の軍事動員強化を提言しています。

 報告書では、「更に検討を進めるべき課題」として、「憲法問題」にもふれています。

 懇談会は「憲法改正について論じる場ではない」としつつ、歴代政権が「憲法違反」との解釈を取ってきた集団的自衛権の問題について、「早急に解決すべき」だとの意見を紹介。事実上、集団的自衛権の行使を迫っています。


1990年代からの安保政策をめぐる動き

 1991年4月 ペルシャ湾に海上自衛隊掃海艇を派兵

   92年6月 PKO(国連平和維持活動)協力法成立

      9月 カンボジアPKOへ自衛隊派兵

   94年8月 村山首相の私的諮問機関「防衛問題懇談会」が答申、本格的派兵体制づくり打ち出す

   95年10月 米海兵隊員による少女暴行事件に抗議、沖縄で8万5千人の県民集会

   96年4月 橋本首相とクリントン大統領が「日米安保共同宣言」を発表、日米安保をアジア太平洋地域に拡大

      12月 SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)最終報告、普天間基地に代わる新基地建設など盛り込む

   97年9月 「日米軍事協力の指針」(新ガイドライン)に合意、米国がアジア太平洋地域で起こす戦争への日本の具体的協力を取り決め

   99年5月 「周辺事態法」など新ガイドライン関連法成立

 2000年10月 「アーミテージ報告」、日本に集団的自衛権の行使容認迫る

   01年10月 米軍の対テロ報復戦争を支援するためのテロ特措法成立

      11月 海上自衛隊の艦艇3隻をインド洋に派兵

      12月 PKO協力法改悪でPKF(平和維持軍)への参加凍結を解除

   02年9月 ブッシュ米政権、「国家安全保障戦略」報告で「先制攻撃戦略」を打ち出す

   03年3月 米英が対イラク戦争開始

      5月 小泉首相とブッシュ大統領が「世界の中の日米同盟」の強化で合意

      6月 「武力攻撃事態法」など有事法制関連3法成立

      7月 イラク軍事占領を支援するためのイラク特措法成立

      11月 ブッシュ大統領が世界規模での米軍事態勢再編で同盟・友好国との本格的協議の開始を発表

   04年2月 陸上自衛隊部隊(本隊)をイラクに派兵

      4月 「安全保障と防衛力に関する懇談会」設置

      6月 イラク多国籍軍に自衛隊が参加


武器禁輸見直し 財界と米国の要求

 報告書は、憲法の平和原則に基づき、武器の輸出や共同開発を全面禁止した「武器輸出三原則」の見直しを打ち出しています。

 同原則の見直しは、「他国の技術進歩から取り残される」などの理由から、国内軍需企業が繰り返し求めていたものです。

 報告書は、「現在の弾道ミサイル防衛に関する日米共同技術研究が共同開発・生産に進む場合には、武器輸出三原則等を見直す必要が生じる」と述べ、「少なくとも米国との間で武器禁輸を緩和すべき」だとしています。

 「三原則」見直しの背景には、新たなもうけ口の獲得を狙う財界と、「ミサイル防衛」の実戦配備を進める米国の要求があることがはっきりと示されています。



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