日本共産党

2004年10月20日(水)「しんぶん赤旗」

衆院予算委

志位委員長の総括質問

(大要)

【関連】年金財源口実に定率減税廃止/大増税3,3兆円/“働き盛り世代”の負担軽減という国庫負担引上げの目的に反する/衆院予算委 志位委員長が追及(2004年10月19日)


 日本共産党の志位和夫委員長が十八日の衆院予算委員会でおこなった総括質問(大要)はつぎの通りです。



志位

定率減税を縮小・廃止して、国庫負担引上げの財源にあてるということか

首相

定率減税の縮小は一つの選択肢だ



 
写真

3.3兆円の大増税計画を追及する志位和夫委員長=18日、衆院予算委

志位和夫委員長 私は、今日は、年金問題について、小泉総理に質問いたします。

 政府は、国民の反対を押し切って年金改悪を強行し、この十月からサラリーマンの保険料の値上げを実施しました。しかし、国民の圧倒的多数は、いまなお、この改悪された年金法を認めておりません。九月の世論調査でも、78%の国民が「法律の作り直し」を求めております。その最大の理由は、「負担が増える一方、給付が減る」というものでありますけれども、それに加えて、その負担増と給付減がどこまで続くかわからない、これでは老後が不安で仕方がない、これが国民の多数の気持ちであります。

 実際、改悪された年金法の枠組みで押しつけられようとしている負担増は、保険料の値上げだけではありません。増税も押しつけられようとしている。今日、私がとりあげたいのは、この問題についてであります。

 今回の年金法は、基礎年金への国庫負担を、三分の一から二分の一に引き上げることが、全体の大前提にされております。二分の一に引き上げることは当然のことでありますけれども、問題はその財源であります。総理は、この財源について問われて、十四日の本会議の答弁で、「改正年金法に明記された税制改革」、つまり増税によってまかなうという立場を述べつつ、「これにともなう税制面の対応については、昨年末の与党税制改正大綱をふまえ、個人所得課税、消費税を中心に税制改革にとりくんでいく」とお述べになりました。

 昨年十二月の「与党税制改正大綱」にはなんと書いてあるか。これを見ますと、「平成十七年度及び平成十八年度において、恒久的減税(定率減税)の縮減、廃止」などにより、「基礎年金にたいする国庫負担割合引き上げに必要な財源を確保する」と明記されております。つまり、総理にうかがいたいのですが、この「大綱」をふまえて「税制改革」をおこなうということは、所得税・住民税の定率減税の縮小・廃止をおこなって、二分の一の財源の一部にそれをあてるということを意味することになるわけですが、そういうことでしょうか。端的にお答えください。

 小泉純一郎首相 まず、基礎年金の国庫負担、これを三分の一から二分の一に引き上げるということについて、どのように財源を調達するかということを考えますと、私は定率減税の縮小というのは一つの選択肢だと考えております。もとより、所得税全体の見直しもしなきゃなりません。それと、地方に税源を移譲ということもあります。

 そういうことを考えますと、私は二年先まで見とおして消費税を上げる環境にないと見ています。議論は結構です、二年後にどのような税制改革をなすべきかという点については消費税を導入すべしという意見も多々あります、そういう議論は妨げませんが、この二年間の間を見れば、私は定率減税の縮小等考えながら、財源というものを、所得税全体を見るのはもちろんでありますが、財源調達を考えていかなければならない。もとより、これは歳出の削減も考えなきゃなりませんし、同時に国債、大量の国債発行をどのように抑制していくかという面もあります。経済の活性化を考えながら、総合的に考えるべき問題であると思っております。

志位 

庶民大増税で国庫負担引上げにあてるのは、目的に反するものではないか

首相

(答えられず)定率減税を段階的に縮小していくのも選択肢だ

志位

答えられないのは、道理のないことをみずから示すものだ


グラフ

 志位 いま総理から、定率減税の縮小、これをおこなうという踏み込んだ発言がありました。なかなか重大な答弁だと思って聞きました。

 所得税、住民税の定率減税というのは、九九年度から「恒久的減税」として始まったものですが、これがかりに廃止までいきますと、総額三・三兆円もの大増税となります。

 私は、今日、こういうパネル(グラフ1)を作ってきたんですが、これは定率減税が廃止された場合に、年収別にどれだけの増税になるかというグラフです。サラリーマン、専業主婦、子ども二人のいわゆるモデル世帯のケースです。黄色い部分(下)が定率減税廃止にともなう増税、緑の部分(上)は配偶者特別控除廃止――これからかかってきますが、これにともなう増税ですが、これを見ていただければわかりますように、だいたい年収五百万円で八万円、六百万円で十一万円、七百万円で十四万円の増税です。

 それからこの赤い棒グラフを見てほしいんですが、これは定率減税を廃止した場合に、増税率――つまりどれだけ税金が増えるかというグラフであります。だいたい(年収)五百万円、六百万円あたりがピークで、22%も税金が増えるという計算になります。これは、増税に二十九万円の頭打ちがありますから、高額所得者の方が増税率が下がってきて、年収三千万では3%くらいの増税率です。つまり、子育て真っ最中の、働き盛りの中堅層を、まさに直撃する大増税だということをいわなければなりません。

 私が問いたいのは、こうした庶民大増税をもって基礎年金の国庫負担の引き上げの財源にあてるというのは、これは国庫負担の引き上げの目的にまったく反するものではないかという問題なのです。

 つまり、そもそも国庫負担の二分の一への引き上げというのは、何を目的にしたものだったのか。これが法律に明記されたのは、五年前の年金改定のことでしたが、そのときの国会審議で当時の丹羽厚生大臣が二分の一への引き上げ目的について何と述べているか。議事録を読んでみましたら、はっきり言っております。「基本的には若年世代の負担の軽減に充当する」、あるいは、「保険料率の引き下げ、このような観点から、私は基礎年金の負担は二分の一までできるだけ早くしなければならない、こう考えておる」。つまり、働き盛りの世代の負担を抑える、そのために二分の一に引き上げる、それが目的なんだとはっきり答弁していたわけですね。

 その二分の一への引き上げの財源を、まさに働き盛りの世代を直撃する庶民大増税でまかなうというのは、そもそも二分の一は何のためのものだったかということになるじゃありませんか。二分の一に引き上げる財源に庶民大増税をあてるというのは、引き上げの目的に反している、矛盾していると考えますが、総理いかがでしょう。

 首相 これは、定率減税一つをとって議論するものではなくてですね、まず、年金の財源をどのように確保するか。おそらく共産党のみなさんは、消費税は引き上げ反対でしょう。そして、定率減税縮小するのも反対でしょう。給付を下げるのも反対でしょう。保険料上げるのも反対でしょう。国債を増発するのも反対でしょう。どうするかというのが問題なんです。

 そういう点を考えて、私はこういう点につきましては、全体で考えなきゃいけないから、野党のなかでも民主党は消費税を引き上げた方がいいということをいっています、将来的に。自民党のなかでも消費税を引き上げた方がいいといっております。私はそれは、将来はともかく、二年の間に消費税を引き上げる環境にないから、私の在任中は引き上げない。しかしどこかで三分の一の基礎年金の公費負担を二分の一に引き上げていくということの方が、若い世代の年金に対する保険料の負担を引き上げるのは少なくてすむ。給付をやはりできるだけ下げるのは低くしてくれという要望がある。となると、全体、社会でこの年金制度を持続可能なものにするためには、ある程度財源というものを考えなきゃいかん。ということを考えると、その一つの選択肢として、定率減税されていた部分を、段階的に、一挙にじゃありませんよ、段階的に縮小していくのも今後一つの選択肢ではないかなということを述べているわけであります。

 志位 総理は、長々と述べましたけれども、私が聞いたことにまったくお答えになっていません。私が聞いたのは、二分の一への引き上げの目的は、働き盛りの方々の負担の軽減を抑えるためのものでしょうと。それを働き盛りのみなさんに大増税を迫るような定率減税の縮小・廃止でまかなうのは、これは筋が違っている、矛盾しているじゃないかと聞いたんですよ。それについてまったく答えないで、そうやって長々としゃべるのは、道理のないことをあなたはやろうとしているということを、自ら示していると、私は思います。

 財源ということについていいましたら、私たちは、二分の一への引き上げの財源は、これは歳出の見直しでできる。道路特定財源の一般財源化、あるいは公共事業の無駄の縮減、あるいは軍事費も「聖域」にしないでメスを入れる(「そうだ」の声)。そのことによって、歳出の縮減によってまかなえる。

 年金全体の問題についていいましたら、歳入についてもあまりにも下げすぎた大企業への税金、これはせめて世間並み、ヨーロッパ並みにする。そういうことも含めて対応すればできるということもいっておりますけれども、私が聞いたのは二分の一引き上げの財源に庶民大増税をあてるというのは、何のための二分の一引き上げかということになるのではないかということです。それを聞いたのにたいしお答えにならなかった。

志位   

なぜ大企業減税はそのままで、庶民にだけは大増税か「最も手をつけやすいところからとる」では年金不安をひどくするだけだ

首相

(答えられず)歳出削減だけではもたない


グラフ

「大企業収益」は、資本金10億円以上の全産業(金融・保険業を除く)の経常利益。出典‥財務省「法人企業統計調査」
「家計収入」は、民間企業が支払った給与の総額。出典‥国税庁「民間給与実態統計調査」

 志位 財源ということをいわれますが、なぜ定率減税だけを縮小・廃止するのかという問題がつぎに問われると思うんですよ。

 九九年に「恒久的減税」としておこなわれたのは、所得税・住民税の定率減税だけではありません。大企業むけの法人税の減税もやられた。高額所得者が潤う所得税の最高税率の引き下げもやられました。これは、三点セットで「恒久的減税」としてやられました。それなのになぜ、定率減税にだけ手をつけるのか。

 あのとき、「恒久的減税」の最大の理由とされたのは「景気対策のため」でしょう。じゃあ、それから五年たってどうなったか。これは、そのグラフ(グラフ2)ですけれども、青い棒(上)は大企業の収益です。この五年間に、財務省のデータで、十二兆円から二十一兆円に、九兆円増えている。赤い棒(下)は家計の収入です。これは国税庁のデータですけれども、二百二十三兆円から二百四兆円へと、十九兆円も減っているんですよ、家計の収入は。ここから三・三兆円をさらに奪おうというのが、定率減税の廃止ではありませんか。これはまったく説明がつかない。伸びている方の大企業の方の減税はやりっぱなし、減っている方の家計の収入はもっと足をひっぱる増税をやる。これは説明がつきません。

 結局、ここにあらわれているのは、年金の財源が足りなくなったら、とりやすいところからとると、この立場だと思います。

 この九月に、日本総合研究所という経済界のシンクタンクが、定率減税が与える影響についてのリポートを書きました。そこでは「定率減税の廃止・縮小は時期尚早」として、なぜこれをいまやったらまずいのか(について分析している)。「景気に悪影響を与える」。それだけじゃない。「国民の年金不安をひどくする」と書いてあります。こう述べております。「定率減税廃止の目的は、基礎年金財源であるが、将来の年金制度に対する不安感が払拭(ふっしょく)されないなか、当座しのぎのために最も手をつけやすい部分を利用して取り繕うといった印象が拭(ぬぐ)い切れず、国民の理解を得ることが難しい」。これはなかなか的を射ていると思います。

 つまり、年金財源が足らなくなったら、道理が立とうが立つまいが、「最も手をつけやすい」ところから取る。大企業からは、あなたがたは巨額の企業献金をもらっているから、法人税にはまかり間違っても手をつけるわけにはいかない。そこで「最も手をつけやすい」庶民増税から手をつけていこう(としている)。

 私は、はっきりいって、こういうやり方こそ国民の年金不安をひどくすると思いますよ。こういうやり方がまかり通ったら、政府の見通しが狂って、また年金の財源が足りない、足りなくなったらまた増税だ、そういうことになったら、いよいよ国民の年金不安をひどくする。こういうやり方は一番国民の年金にたいする信頼を損なうやり方だと考えますが、総理いかがでしょう。

 首相 いまその調査報告は、日本総研ですか。志位委員は「的を射ている」といわれましたけれども、おそらくその報告は消費税を引き上げろといっているんじゃないですか(志位「書いてありません」)。私は、どこかで財源を調達しなきゃいけない。歳出削減だけでは持ちません。歳出削減分はむしろ国債の増発抑制に使わないと、これから将来の経済回復、財政再建等をみると、経済にも悪影響を及ぼす。そういう全体を考えますと、私は定率減税の段階的な縮小が必ずしも悪いとも思っておりません。これは十分景気に配慮する必要があります。そういうことから、一挙にではありませんが、段階的に税制全体、所得税も消費税もあるいは資産課税も全体を総合的ににらんで今後の税制改正のなかで議論していく問題じゃないかと。まだ断定的なことをいう段階ではありませんが、予見し得る二年に限っていえば、消費税は引き上げないでほかの財源を考える時期ではないかなと、そういうふうに考えております。

 志位 また質問にお答えにならないんですね。私は、取りやすいところから取ると、そういう姿勢では年金不信を増すだけじゃないかというふうに聞いたんですね。それにたいしてまったくお答えにならない。(首相は)それだけ道理のないことをやろうとしているんですよ。

 いま財源という問題をいわれました。さきほど私は答えたけれども、たとえば、まだまだ、公共事業は、国と地方と公団をあわせて(年間)四十兆円ですよ。軍事費は五兆円ですよ。これを縮減する必要がある。それから、たとえば、法人税をこの間ずーっと減税した結果、一時は(税収が)二十八兆円あったものが(今では)十五兆円ですよ。ヨーロッパの、たとえばフランスのだいたい半分の水準に、税と社会保険料(負担)の水準はなっている。これを世間並みにだんだんと戻していく必要がある。消費税に頼らなくても、安心できる制度はつくれます。

志位

増税の議論が、年金法を通した後に出てくる、国民をあざむくやり方だ

 志位 私が、いまの総理の答弁を聞いて、くわえて問題だと思うのは、今日は結局総理は増税に踏み込んだわけですけど、こういう増税の議論が、年金法を通した後に出てくるというのが問題なんですよ。

 今度の年金法案をめぐって、総理がとった態度というのは、一貫していたのは、国民にできるだけ都合の悪い情報を知らせない、批判をまねくようなことはできるだけ小出しにして、国民をごまかしごまかしやっていくというやり方でした。「保険料は上限があります、給付は下限があります」(と政府はいったが)、これは両方ともうそでした。実際は、上限どころかどこまでも上がっていく。現役世代の五割(の給付を)保障するといったが、もっと下がっていくというのが明らかになってくる。そうするとしぶしぶそのことを認める。(真実が)わかってやっと認める。

 今度の、基礎年金の財源問題もそうじゃありませんか。私がこの問題について、総理にうかがったのは、去年の十月九日の党首討論のときですよ。これに庶民増税をあてようとしているんじゃないか。私が聞いたのにたいし、総理は、「いっさい決めていない」。「決めていない」の一点張りで、これをきちんといわなかった。それで法律が通った後は、今度は「保険料を上げるだけじゃない。増税もお願いします」と。これは、国民をあざむくやり方だと(「そうだ」の声)、私は思いますが、何か反論があったらいってください。

 首相 決めていないというのはいまでも決めていないんです。選択肢の一つだと。これから議論するんです。それと同時に、公共事業が四十兆円とか、五十兆円とかいって、防衛費が五兆円といっていますが、その点でいけば、公共事業費は国家予算でいけば九兆円をすでに切っています。おそらく地方を入れての(志位「地方と国と公団の全部あわせてです」)、そうしたらば福祉が一番です、日本の税のなかで。福祉の関係予算は、国家予算だけをとっても十八兆円かな、十九兆。公共事業は九兆円を切っています。いま政府がいちばん、国民の税金を使っているのは、福祉費用です。その点を誤解しないでください。

 志位 国民を幾重にもあざむいて通した、改悪年金法を白紙に戻してやり直すことを要求して、質問を終わります。(拍手)


定率減税

 一九九九年度税制「改正」で導入された「恒久的減税」で、所得税と個人住民税の税額の一定割合を控除するもの。所得税額の20%(最大二十五万円)、個人住民税額の15%(同四万円)を税額から差し引きます。当時、「著しく停滞した経済活動の回復に資する」ための一環として、所得税の最高税率の引き下げ、法人税の税率引き下げなどと同時に実施されました。政府・与党は、新たな財源づくりのため、定率減税の廃止・縮小を検討しています。


 「定率減税縮小が個人消費に与える影響」と題した日本総合研究所のリポート(九月一日発表)から

 「定率減税の半減によって、個人消費は一兆二千七百二十二億円減少すると試算。これは二〇〇三年度の個人消費の0・45%に相当」「定率減税廃止の目的は基礎年金財源であるが…、将来の年金制度に対する不安感が払拭(ふっしょく)されないなか、当座しのぎのために最も手をつけやすい部分を利用して取り繕うといった印象が拭(ぬぐ)い切れず、国民の理解を得ることが難しい」



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