2004年10月28日(木)「しんぶん赤旗」
厚生労働省は二十七日、生活保護制度の「母子加算」について廃止を含む見直し案を、生活保護制度全般のあり方を検討している省内の専門委員会に再度提案しました。
厚労省社会援護局の岡田太造保護課長は、母子加算の問題点として、(1)加算により生活保護費が高くなる結果、就労・自立の意欲を阻害している(2)生活保護を受ける母子世帯のほうが、受けていない母子世帯より平均所得や消費支出が高い(3)母子(ひとり親)世帯というだけで一律に支給するのは問題―の三点をあげました。
委員の京極高宣・日本社会事業大学長は廃止を支持し、「母子家庭であれば機械的に支給するのは合理性がない」として、危機的状態のとき手厚く援助する短期型にする案を提示しました。
しかし多くの委員は、保護費が高いことが就労意欲を失わせているという厚労省の説明に疑問を呈しました。現在、一般母子世帯の八割、生活保護を受けている母子世帯の四割は働いているという水準は世界的に異常な高さだとして、就労実態を調査するよう求める声もあがりました。
議論を受けて岩田正美委員長(日本女子大学教授)は「従来の一律的なあり方は検討の余地がある。しかし、ひとりで子どもを育て、自立することは非常に困難であり、何らかの配慮が必要である。こんご従来の方法で加算するか、別の方法にするかはさらに検討課題としたい」とのべ、現段階で廃止を決断することはできないと表明。委員会として厚労省案は了承されませんでした。
母子加算 父母の一方、または両方がいない世帯で子どもを養育しなければならないことに対応し、子どもの健全な育成をはかるために上乗せ支給されるものです。対象となるのは、子どもが十八歳になった年の年度末まで。適用件数は八万九千二百九十四件(二〇〇三年七月現在)。加算額は、東京二十三区(一級地)で在宅、子ども一人の場合、月額二万三千二百六十円です。 |
生活保護制度の「母子加算」の廃止方向は、これまで同専門委員会で繰り返し議論され、その結果「母子加算は必要」と委員の総意が確認されていました。それにもかかわらず、厚労省が「積み残しの課題」として議論を蒸し返したものです。
厚労省が母子加算の廃止に執着する背景は、不況のなか急増している生活保護費を抑制したい小泉内閣の狙いがあります。「骨太の方針二〇〇四」(六月)で小泉内閣は、生活保護について、加算や扶助基準、国庫負担率の見直しを指示。これを受けて財政制度等審議会は来年度予算編成への「建議」で、具体的に母子加算をあげ、母子加算を支給することで一般母子世帯との均衡がとれていないという口実で、「廃止することが適当」と求めました。
しかし均衡がとれていないとして所得のきわめて低い母子世帯に合わせる理由はありません。低すぎる母子世帯をどう支援するかが政府の役割であり、厚生労働行政で検討すべき緊急課題です。
また、“均衡”論の根拠として使われている資料についても、専門委の岩田正美委員長は「加算のあり方を検証するには危ぐがある」と指摘。母子加算を受給するのは母子家庭のほか、父子家庭や祖父母が養育する家庭などさまざまあるのに、それを所得の低い一般母子家庭とだけ単純に比較しても「高い低いはいえず、(廃止の)決断はできない」としました。
母子加算のあり方は今後も検討課題とされましたが、廃止を含めて見直しを指示した「骨太方針」は二〇〇五年度実施をめざしています。
すでに生活保護見直しの第一弾として今年度から段階的に実施されている老齢加算廃止を見ると、昨年末に専門委で議論した際は、加算は廃止しても高齢者の社会生活に必要な費用に配慮すると明記されていましたが、実際には、加算の減額だけが先行されました。母子加算についても、同様なことがあってはなりません。 江刺尚子記者