2004年10月29日(金)「しんぶん赤旗」
【パリ=浅田信幸】欧州連合(EU)の基本的あり方を定める欧州憲法が二十九日、ローマで調印されます。同憲法は、二十五カ国に拡大された欧州連合としての外交、政治、経済の基本路線を規定するとともに、大統領(常設議長)や外相の新設など機構づくりの内容を盛り込んだもので、欧州だけでなく国際政治にも大きな影響を与えることになります。調印後、各国で批准作業が本格化し、二年以内の批准・発効が目指されます。
全体で四百五十九条からなる同憲法は、「人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配」「平和と人民の福祉増進」「完全雇用と社会進歩」「競争力ある社会的市場経済」などを目標に掲げています。また世界人権宣言や国際人権規約にもとづく基本的人権を網羅した欧州基本権憲章(二〇〇〇年十二月採択)が取り込まれています。
欧州憲法作成はEUの拡大と連動して具体化されました。今年五月には中東欧・地中海域の十カ国が一度にEUに加盟。憲法は拡大EUが機能できるように機構を改革し、同時に膨大な基本条約を整理統合しようとしたものです。
機構改革では、これまでの半年ごとの輪番制による議長(国)に代えて二年半任期の大統領を新設し、外相ポストも設ける点が大きな特徴。憲法採択過程で最後までもめた決定方式については、外交・安保政策など全会一致が必要とされる一部の分野を除き、国(十五カ国以上)と人口(65%以上)の二重の特定多数決が適用されます。
EU諸機関の中で唯一、欧州市民から直接選出される欧州議会の権限が強化され、多くの分野で理事会と並び「共同決定権」を行使できるようになります。
また欧州三十五カ国の七十七組合、六千万人を組織する欧州労連(ETUC)の執行委員会は、基本権憲章が組み込まれたことを前進面だと評価し、憲法支持の姿勢を明確にしました。
他方、米国を盟主とする軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)との「緊密な協力」や、“競争力ある市場経済”が強調される一方で、従来のEU条約にある「公共サービス」(教育、ガス、水道事業など)の原則が明記されておらず、労働運動や市民運動の一部から強い批判の声が出ています。
憲法の発効には各国の調印とともに、二十五カ国すべてで批准されることが必要。仏、英、スペインなど十カ国ほどが国民投票での批准をめざしますが、一国でも否決となると発効は大幅に遅れるか、発効自体が危うくなる可能性もあります。