2004年10月30日(土)「しんぶん赤旗」
【ロンドン=西尾正哉】ロンドンで編集されている医学専門雑誌『ランセット』(電子版)は二十九日、イラク戦争・占領によるイラク人の死者は十万人を超えたと推計する論文を発表しました。米ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大の現地調査に基づくものです。
科学的調査に基づく同論文によると、二〇〇三年の米英軍による侵略以降、侵略・占領を原因とする死者は控えめに見ても十万人に達すると結論。「暴力が死亡の原因であり、なかでも空爆が暴力によるほとんどの死亡の原因を占める」と指摘しました。犠牲者の大半は女性や子どもでした。
なかでも深刻な地域は、米軍が街を包囲し無差別の攻撃を行ったイラク中部のファルージャで、暴力による死亡の三分の二を占めるといいます。
これまでは非政府組織(NGO)「イラク・ボディー・カウント」が、メディアの報道などから市民の死者数を約一万六千人と推計してきました。今回の発表はこれをはるかに上回ります。
レス・ロバール教授らによる同論文は、イラクの主要三十三地域のそれぞれ三十三世帯について聞き取り調査を行い、イラク侵略以後の十七・八カ月の死亡者数と死因を侵略以前の十四・六カ月と比較。その結果、イラク国民の死亡率は開戦前の二・五倍になったといいます。
侵略以前のイラク国民の死因は、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などでしたが、侵略後、暴力が第一の死亡原因となったと指摘しています。
同誌の編集者、リチャード・ホートン氏は「論文の内容は先制攻撃に責任を負う政府に対し、多くの疑問を提示している」「イラク戦争は国民に平和と安定をもたらすには不十分だ。民主的帝国主義はより多くの死者をもたらした」と批判しています。