2004年11月9日(火)「しんぶん赤旗」
商業新聞を繰っていたデスクが「これはなんだ?」と声をあげました。一ページの全面広告で「もう限界」の大文字、左下に「全日本トラック協会」とあります。「調べてみて」とデスクがいいました。 大小島美和子記者
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さっそく編集局を飛び出し、新宿にある全日本トラック協会を訪ねました。
「これを見てください」と、対応してくれた交通・環境部の星野治彦課長代理は燃料の軽油価格が急上昇している表を示しました。「軽油の価格は、まとめ買いでも、今年一月の一キロリットルあたり六十三円台から九月には八円近く、四月からでも六円超、一割以上も値上がりしているんです」
数円の値上げで経営は大変なのでしょうか。
「トラック運送業者はいまでも平均的にはわずかながら赤字」。「燃料費の値上がりを運送料として荷主に転嫁できれば別ですが、それがなかなかできない」と星野さんはいいます。
同業界では一九九〇年代の規制緩和で業者数が増加、激しい運賃の低価格競争が続いています。
トラック協会の広告は「原油高騰にともなう軽油・ガソリン価格の大幅なアップの影響で、経営努力によるコスト削減は『もう限界』…バランスのとれた適正な運賃が必要なことを、ぜひご理解ください」と訴えています。
東海地方でトラック五十台をもつある運送会社の社長さんに聞きました。開口一番「十数%も燃料代があがると、利益がなくなっちまうよ」と返事が返ってきました。運賃価格への転嫁についても「それでなくても運賃の低価格要求はきつい。20%の運賃引き下げ要求も出て、そんな仕事は断っているほどだ。転嫁はなかなか難しい」といいます。「多くのトラック業者が経費削減のために経営者の報酬も労働者の賃金も泣く泣く下げてきた。これ以上下げられない」とも語ります。
船はどうでしょうか。国内航路専用の船着場、東京港有明ふ頭――。岸壁には大きな貨物船に燃料注入の専用船が横付けしています。船会社の人に聞くと、九州と東京を結ぶ船の一航海に必要な重油量は四百キロリットルといいます。すごい量です。
海運業者組合の全国組織である日本内航海運組合総連合会を東京都千代田区に訪ねました。
内航海運業界も、運航会社は中小企業が主体で、荷主は大手メーカーが多いという業界です。野口杉男第一営業部長は、運賃値上げについて、荷主業者が「『多少とも面倒を見(運賃への転嫁を認める)なければ』という雰囲気はあるものの、全体としてはなかなか『うん』と言ってもらえないのが現状」といいます。
野口さんは「こんなパンフレットを作っているんですよ」と差し出してくれました。見ると「内航海運にとって燃料油の値上がりは、死活問題…。燃料価格の変動を運賃に反映させてください」とあります。表紙には「SOS」の文字も…。一万冊作り、荷主の業界などを訪問して、価格転嫁の要請をしているといいます。
原油価格の高騰が、コスト削減で最初に対象とされる運送、物流業者の経営を大きく圧迫しています。
原油価格高騰の原因を、ある石油業界関係者に会って聞きました。
「もちろん、中国やアメリカの需要の増加にたいし、原油産出能力が限られていることは要因としてあります。しかし、同時に、イラク戦争やテロなどの不安を材料に、ヘッジファンド(国際的投機集団)などの投機マネーが石油市場に流れこみ、需要と供給にもとづく取引価格以上に価格高に拍車がかかっている」と指摘。「原油を使って産業を営むわれわれが投機資金に振り回されるのはなんとかならないか、というのが正直な気持ち」といいます。