2004年11月11日(木)「しんぶん赤旗」
米軍が一万五千人もの兵力を動員して開始したイラク中部ファルージャに対する総攻撃は、住民を大量虐殺し、イラク問題の道理ある解決に壊滅的な打撃を与える作戦です。
米軍は空と地上から無差別に爆撃と銃撃を浴びせ、総合病院で医師らを拘束、診療所も爆撃し、患者らを死亡させるなど、残虐性をむきだしにしています。救急車を含む医療体制がほぼ壊滅状態にあり、死傷者の搬送が不可能なのはもちろん、正確な数すらつかめません。現地住民が本紙の電話取材に「がれきの下の死者は報道の数倍に達するのは確実」とのべるほどです。電気や水道の遮断、食料不足も住民の生命を危機的なものにしています。
当然のこととして、イラクでは米軍と、これに協力するイラク暫定政府への非難がごうごうと巻き起こっており、今後の情勢混乱は必至です。
イスラム教スンニ派の有力組織、イスラム聖職者協会は九日、攻撃を「大虐殺、集団殺りくの戦争だ」と厳しく非難し、来年一月に予定される国民議会選挙をボイコットすることを決定しました。暫定政府に閣僚を出すイラク・イスラム党も声明を発表。「米軍と共謀して自国民を殺害しているイラク政府に主権を担う資格はない」とし、九日には政府からの離脱を決定しました。
シーア派指導者ムクタダ・サドル師の報道官も九日、「総攻撃を厳しく非難する」とのべました。八日にはイラクの大学教授や政党指導者ら七十七人が連名で、米軍総攻撃を「血にまみれた大量虐殺」と批判し、「暫定政府は出直すべきであり、自国民の大量虐殺への協力を拒否するよう要求する」と声明を発表しました。
イスラム聖職者協会は「イラク国民は国を守るために米軍の占領に対して抵抗する権利があり、われわれはそれを支持する」(ダーリ事務局長)とも言明しました。
他のアラブ諸国でも、「武力の行使はイラクの安定をもたらすどころかさらなる暴力と破壊、混乱をもたらす。政治的解決こそ唯一の方法だ」(エジプトのアルアハラム紙)など総攻撃を厳しく批判し、アラブ諸国民の反米、反暫定政府の声がさらに広がるだろうと指摘しています。
アラブ連盟(二十一カ国とパレスチナ自治政府が加盟)のムーサ事務局長は九日、「このような方法でファルージャを爆撃することなど誰も受け入れるわけにはいかない」「ファルージャへの侵攻を即時中止し、対話と合意の路線に立ち戻らなければならない」と強調しました。
(カイロ=小泉大介)
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小泉純一郎首相は九日、米軍による国際法違反のファルージャ総攻撃を「成功させないといけない」と断言し、十万人ともいわれる住民への無差別殺りく作戦を無条件に支持しました。米国に盲従し、罪のないイラク市民の命を一顧だにしない、許されない態度です。
十二月十四日に期限が切れるイラクへの自衛隊派兵についても五日、新たな部隊にサマワへの派兵命令を出すなど延長を強行する構えです。
イラクに派兵されている自衛隊は米軍を中心とする多国籍軍に参加しており、事実上、占領軍の一員になっています。その上、首相がファルージャでの住民殺りく作戦を無条件に支持したとなれば、自衛隊が虐殺者・米軍の“共犯者”とみなされるのは明らかです。
六月末にイラクで実施された世論調査でも、八割が米軍に率いられた「連合軍」の撤退を求めていました。ファルージャでの米軍の蛮行は駐留外国軍に対する憎しみ、怒りをいっそうかきたて、日本政府・自衛隊はイラク国民全体、アラブ・イスラム世界全体を敵に回すという取り返しのつかない立場に身を置くことになります。
もともと自衛隊派兵は、フセイン政権による大量破壊兵器の保有という戦争の「大義」が失われ、根底から根拠が崩れています。サマワでは自衛隊宿営地への砲撃が相次いでいます。十月には二度も宿営地内に着弾、施設に被害も出ています。
今回の米軍による総攻撃にあたって発令された事実上の戒厳令である「非常事態宣言」はサマワにも適用されています。「非常事態宣言」は、「恒常的な抵抗運動で市民の生命が脅威にさらされている地域」「進行中の一連の暴力によって危険が存在している地域」で発令されると報じられています。
自衛隊の「非戦闘地域」での活動を定めたイラク特措法に照らしても、派兵は許されません。
日本国内のどの世論調査でも、自衛隊の派兵延長に反対が過半数を占めています。
イラクに駐留する外国軍の撤退も相次いでいます。イラクに派兵している米国以外の国は四月に三十五カ国だったのが、十月には二十八カ国になっています(イラク多国籍軍のホームページから)。オランダやハンガリーは来年三月末までに撤兵することを発表しています。小泉首相は今こそ、自衛隊の速やかな撤退を真剣に検討すべきです。 榎本好孝記者