2004年11月11日(木)「しんぶん赤旗」
「介護現場で働く者から見れば、今回の見直し方向はとんでもないの一言」――。一人ひとりの実情に応じた介護プランを立てたいと願う、ケアマネジャーの声です。東京・多摩地域で介護サービスにかかわる人々が利用者の実態を調査しました。報告書『人が人であるために』(介護保険改善実態調査三多摩実行委員会発行)から見えてくる利用者の願いとは…。
「介護保険制度は今でも不十分なのに、今検討されている見直しでは、軽度の人のサービス給付を制限する、利用料を引き上げるなど、財政が大変だから利用を抑制しようという。介護サービスを受けている人たちの実態からみてどうなのかを明らかにしなければ、と調査を決めました」
こう語るのは、調査をまとめた医療法人健生会・立川相互病院看護部長の幸節(こうせつ)澄子さんです。
現状を把握するために障害の程度、住宅、健康、生活の状態、趣味、生きがい、社会とのつながりなど、さまざまな角度から聞き取り。事例ごとに実態をつかむ作業をすすめました。重視したのは、どんな人生を歩んできたのかというその人の歴史です。三十五事例の一つ一つから、介護の現状がにじみ出てきます。
まず見えてきたのは、「要支援」や「要介護1」の人々が給付からはずされたら生活が成り立たない、という現実でした。
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ある事業所では、一人暮らしと高齢者夫婦の世帯が42・2%を占めていました。「肺気腫や歩行困難などもあり、訪問介護が不十分になったら一人で生活していくことは困難(八十三歳女性・要支援)」「日中一人でいると寝たままになってしまい、活性が低下してしまう。生活支援型のサービスが必要(九十一歳男性・要支援)」など、今のサービスがなければ一人暮らしを続けられないと思われるケースがいくつもありました。
「要介護4・5」の重度だと、家族介護なしでは在宅生活が成り立たないという実態もありました。
「要介護5」の八十歳の女性を、夫と娘が介護しているケース。痴ほう症状、身体拘縮(こうしゅく)などのため、常時介護を必要としています。ところが、限度額では足りず、自費で有償ヘルパーを頼み、月八万円という自己負担が重くのしかかっています。福祉用具やリフトも使いたいし、早朝夜間もヘルパーを頼みたいけれど、負担が大き過ぎて使えない。家族介護も限界となり、結局入院せざるを得ませんでした。
利用料にかんしては、現行の一割の利用料でさえ負担に感じて、サービスを制限している人が多いこともわかりました。制度開始当初、利用者から「一万円の範囲でケアプランを作ってほしい」と頼まれていたのが、最近では「数千円で」というようにその額も下がっているといいます。
幸節さんは訴えます。「介護保険は、社会的に介護を支えるといううたい文句で始まったはずです。でも、なんとか救えないかと親身になってくれる自治体もあれば、何でもケアマネ任せのところもある。明らかになった実態を共有して国にもっと意見を言ってほしいし、高齢者の人権が守られるようなしくみにしなければと痛感します」
報告書を監修した日本福祉大学教授・石川満さん それぞれの事例を書き出してみて、一人ひとりの命や暮らしの重さ、人間らしい普通の生活を送るためのさまざまな課題に、圧倒され続けていました。
今回の見直し案は、給付の効率化や重点化から出発しているという路線をきちんととらえておくことが大切です。議論の最中であるにもかかわらず、厚生労働省はすでにホームページ上で「介護保険制度の見直しについて」というパンフレットを公表していますから、かなりきな臭くなってきたといえるでしょう。そのような中で、今回の実態調査は非常に大きな意味を持っていると思います。
介護保険制度になってから、国や自治体は高齢者の生活実態をつかむということをおろそかにしてきました。調査を通して課題が明確になった今、すべての人が安心してそれぞれの市町村で暮らせるよう、制度の改善をすべきです。