2004年11月18日(木)「しんぶん赤旗」
「日本三景」の一つ、宮島をはじめ、美しい島々が浮かぶ瀬戸内海の広島湾。その西端の米海兵隊岩国航空基地(山口県岩国市)では、沖合を埋め立て、二千四百四十メートルの新たな滑走路を建設する工事が進んでいます。二〇〇八年度の完成を目指し、早朝からベルトコンベヤーで土砂が次々に流し込まれていました。ここに米海軍厚木航空基地(神奈川県)の空母艦載機部隊とNLP(夜間離着陸訓練)の移転が米軍再編の中で狙われています。竹下岳記者
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「岩国基地ほど、はっきりとした基地強化が進んでいるところはない。これがNLP移転の呼び水になっている」。同基地を監視している久米慶典・山口県平和委員会代表理事は言います。
岩国基地で進められているのは、「騒音の軽減」を口実に、現在の滑走路を海側へ約一キロ移すための工事です。
基地面積は五百七十四ヘクタールから七百八十七ヘクタールへと一・四倍に拡大。水深十三メートルのバース(停泊地)も建設中です。これまでのバース(水深八メートル)よりも深くなり、強襲揚陸艦など大型艦船の寄港も可能となります。現滑走路も「誘導路」としてそのまま残ります。
総事業費は約二千七百億円。久米氏は「日本政府の『思いやり予算』による、事実上の新基地建設だ」と言います。
岩国基地への米空母艦載機部隊とNLPの移転案が浮上したのは、厚木基地の爆音被害が限界に達しているからです。
政府は一九九〇年、厚木を中心に本土で実施されてきたNLPの代替基地を硫黄島(東京都)に建設しました。しかし、厚木から約千二百キロも離れているため、米軍は不満を表明。厚木でのNLPも継続しています。
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米軍再編の中で、厚木以外のNLP基地を日本本土に確保し、世界で唯一、前進配備している空母艦載機部隊の本格的な訓練を可能にする―海外“殴りこみ”の恒久基地を確保しようというのが、移転案の狙いです。
米側は在日米軍の再編にあたって「長期にわたる騒音への懸念を解消する」(ファーゴ米太平洋軍司令官)としています。しかし、米海兵隊五十七機、海上自衛隊三十三機(四月現在)が常駐する岩国基地も、年間離着陸回数が五万回を超え、爆音被害は深刻です。
厚木基地の空母艦載機部隊は約七十機。久米氏は「岩国に移転されれば新旧の滑走路が二本とも使用されるのは間違いない。岩国がアジア最悪の騒音の町になってしまう」と懸念を示します。
岩国基地を拠点に中国地方で繰り広げられている米軍機の低空飛行訓練の被害拡大も必至です。
岩国基地の運用実態に詳しい田村順玄・岩国市議(無所属)は「昨年十一月、厚木基地に配備された最新鋭の戦闘攻撃機・FA18Fスーパーホーネットは、翌十二月には岩国に飛来し、中国山地で低空飛行訓練を行った」と指摘します。
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低空飛行訓練の目撃件数は、広島県だけで〇三年度七百五件に達しています。(県まとめ)
長年、低空飛行訓練を記録している元小学校長の榎喬さん(広島県三次市)は「聞き慣れた私でもしゃがみこむような爆音が今でも、月に数回襲ってくる。厚木の部隊がやってきたらどうなるか。絶対に許せない」と憤ります。
加えて、米軍は「西太平洋での空母二隻態勢」を目指し、米海軍横須賀基地(神奈川県)のほかにハワイかグアムにもう一つ空母打撃群を配備しようとしています。その際、米海軍佐世保基地(長崎県)が新たな空母打撃群の日本での前進拠点になるという指摘もあり、岩国基地が訓練場となる危険性があります。
岩国基地には、移転受け入れの「好条件」があるとされます。(1)岩国商工会議所の会頭が移転を歓迎している(2)新滑走路建設用の土砂を取っている岩国市郊外の愛宕山での宅地開発計画が破たんし、米兵用住宅の建設が可能(3)岩国基地から十三キロ沖の無人島・大黒神島(広島県江田島市)で、いったんとん挫したNLP誘致運動が、地元建設業界を中心に再燃している―などの点です。
しかし、地元自治体や住民の批判・懸念は小さくありません。一九九二年六月、新滑走路建設にあたって防衛施設庁と山口県、岩国市は「NLPについては、将来とも受け入れざるを得ない」との密約を交わしましたが、発覚後、強い批判を浴びた県や市は「現在の行政の立場を拘束しない」と表明しました。
広島県は被爆県の立場からNLP誘致に明確に反対し、低空飛行訓練の停止も要求。江田島市では、NLP移転反対の住民運動も起きています。
ブッシュ米政権は先制攻撃戦略をより全面的かつ迅速に遂行するため、軍事態勢の再編を進めています。その中で在日米軍基地は、司令部機能の強化をはじめ地球的規模で戦力を投入する拠点としての役割をいっそう拡大。同時に、米軍と自衛隊の海外での共同作戦をにらみ、両軍の基地共有、運用の一体化を進めようとしています。再編をめぐる動きと問題点を基地の現場から見ます。(随時掲載します)
岩国基地 第一海兵航空団第一二海兵航空群の拠点。FA18戦闘攻撃機、AV8B垂直離着陸攻撃機、EA6B電子攻撃機などが配備されています。朝鮮半島までわずか三百キロで、米韓合同演習などに基地全体で深く関与。所属機は東南アジアや豪州などでも演習を頻繁に行っています。
二〇〇二年からはCH53D大型ヘリ部隊(八機)を配備。今年八月に沖縄で墜落事故を起こし、その後一部がイラク作戦に出動しました。〇二年にはFA18の部隊がアフガニスタン空爆に参加しています。