2004年12月9日(木)「しんぶん赤旗」
米軍を中心とするイラク軍事支配を支えるため、政府は九日の臨時閣議で、十四日に期限切れを迎える自衛隊イラク派兵の一年延長を決定しようとしています。派兵の要件である「非戦闘地域」の虚構がいっそう明らかになり、イラク軍事支配そのものが大きな破たんに直面しています。その中での派兵延長の強行は、日本を取り返しのつかない道に踏み込ませる危険を持っています。
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イラクへの自衛隊派兵はもともと、海外での武力行使、軍事占領への参加を禁止した憲法を真っ向から踏み破るものでした。しかも、昨年三月のイラク戦争以後、情勢は悪化の一途をたどり、米軍が今また各地で「掃討作戦」に乗り出すなど、戦闘状態が続いています。
派兵の根拠となっているイラク特措法は、自衛隊の活動地域を「非戦闘地域」に限定しています。しかし、陸上自衛隊が派兵された今年一月以降、イラク南部サマワの治安も急速に悪化。陸自宿営地を狙ったとみられる砲撃はこれまで八回にのぼっています。
サマワの治安維持を担当するオランダ軍は交戦で二人の戦死者を出し、来年三月までに撤退することを決定しています。自衛隊を占領軍の一員とみなし、撤退を要求するデモも起こっています。
このような事態が繰り返されるたび、陸自部隊は宿営地内に退避し、「人道復興支援」を中断しました。
現在、六百人の部隊のうち百五十人が警備部門(警備中隊)に配属されていますが、防衛庁は今後、同部門を増員する方針。来年二月から派兵される第五次部隊からは対迫撃砲レーダーを持ち込み、宿営地の対弾工事を進めているのが実態です。イラク特措法の要件すら満たさない状況が続いているのです。
イラク戦争の口実となった大量破壊兵器が存在しないことも確定し、その大義は根底から失われました。
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イラク特措法の要件さえ満たさない現状を覆い隠すため、政府は臨時国会では派兵延長について一切、口をつぐんでいました。
一方で、チリで行われた日米首脳会談(十一月二十日)で、小泉純一郎首相は「日本としても協力を継続するが、どのような支援をするかは日本に任せてほしい」と派兵延長を強くにじませました。
「治安は安定している」「市民は歓迎している」――。五日、サマワを「視察」した大野功統防衛庁長官は、わずか五時間半の滞在でこう断言しました。三日に臨時国会が閉会した途端、大野長官や武部勤、冬柴鉄三の自公両党幹事長が相次いで現地「視察」し、わずか数時間の視察で“安全宣言”を出し、延長の決定を強行しようとしているのです。政府は、派兵延長の理由を国会、国民にまともに説明できないからにほかなりません。
米軍の軍事支配に対するイラク国民の抵抗やテロ勢力のばっこで情勢はいっそう泥沼化し、多国籍軍から撤退する国も相次いでいます。
オランダ軍撤退後、サマワの治安を担当する部隊はいまだ「決まっていない」(大野防衛庁長官)のが実情です。
それでも自衛隊派兵の延長を強行すれば、ファルージャでの住民虐殺に象徴されるイラク軍事支配の加担者としてまさに突出した存在になり、イラク国民の憎悪の矢面に立たざるを得なくなります。
陸自幹部が作成し、中谷元・元防衛庁長官に渡した「憲法草案」は、集団的自衛権の行使を可能にすることで「有志連合軍に参加し戦闘行動(アフガン、イラク等)が可能になる」としています。イラク派兵を継続することは、こうした道へ日本を引きずり込むことにもなりかねません。
「人道復興支援」というが… |
政府は、自衛隊のイラク派兵はあくまで「人道復興支援」であることを強調しています。しかし、その有効性そのものも問われています。
サマワに展開する陸自部隊は、給水、施設補修、医療技術指導を行ってきました。
その中心となっている給水活動では現在、一日あたり二百―二百八十トンを供給、これまでに約四万四千トンの給水を行ってきたとしています。ところが、政府がODA(政府開発援助)の一環として来年からの供与を決定した浄水装置六基がフル稼働すれば、「一日あたり約三千百四十トンの給水が可能」(外務省)になります。そうなれば、二週間で陸自のこれまでの給水に匹敵することになります。
多くのサマワ市民は自衛隊に「雇用効果」を期待していました。現在、陸自部隊は施設補修を中心に一日三百―五百人程度の雇用を創出しているとしています。しかし、サマワの人口は二十五万人、失業率は七割ともいわれており、市民には失望が広がっていると伝えられています。
防衛庁は給水活動の縮小を検討しており、「復興支援」という政府の口実からしても、駐留継続の理由は失われているのです。
クウェートを拠点に空輸活動を行っている空自も、「人道支援」物資の輸送を強調していました。
しかし、最近はニーズが全くないのが実態で、空輸の大半は陸自隊員。その他は米兵など多国籍軍兵士の輸送で、軍事支援にほかなりません。