2004年12月14日(火)「しんぶん赤旗」
英国の医療専門家団体「MEDACT」は十一月三十日、イラクでは二〇〇三年三月の米英軍の侵攻後、医療状況がさらに悪化したとする報告書を公表し、米国のイラク戦争に参戦している英政府などに、犠牲者とイラクの保健状況について徹底的な調査を行う独立した委員会の設立などを勧告しました。
報告は、九月にイラク全国規模で行った九百八十八世帯での調査を紹介、「紛争の直接影響」として、米英軍侵攻以後約十万人を超える死亡が推定されるとしています。その死因のほとんどが暴力、とりわけ米英軍などの連合軍の空爆によるもので、連合軍に殺害されたとみられる犠牲者の半数は女性と子どもだとしています。侵攻後十八カ月間の暴力による死者は、侵攻前十五カ月の五十八倍、暴力以外の要因を含むすべての死因でも二・五倍という数字もあげています。
報告は、通常の戦争では死者数の三倍の数の負傷者が出るとされるが、爆弾テロなどの分析調査では、イラクでの負傷者の数は死者数の十倍に達していると指摘しています。
MEDACTは一九八五年にノーベル平和賞を授与された核戦争防止国際医師会議(IPPNW)英国支部で、これまでイラク開戦前の二〇〇二年十一月と開戦後の〇三年十一月に、イラクの医療状況についての報告書を公表しており、今回の報告書は三度目。さまざまな専門機関の報告書や隣国ヨルダンに出国したイラクの医療関係者や非政府組織(NGO)関係者などからの聞き取り調査に基づいたものです。
報告はさらに、イラクの中・南部の主要な病院からの情報についての世界保健機関(WHO)の報告を引用し、銃撃などによる精神的な後遺症が戦争以来急激に増加、戦闘がさらに続けば、精神的後遺症からの障害が大きな問題になると指摘しています。またイラク北部だけで一千万個と推定される地雷や不発弾が残されており、その今後の影響も予測できないと述べています。
「紛争の間接的な保健への影響」の項目では、ことし一月から四月にかけてチフスが流行し五千人が発病したとし、背景として、治安悪化や停電などで冷蔵保管システムが使えず、予防接種計画に深刻な支障がでたことをあげています。イラク保健省の情報として、出産に当たって専門的な援助がえられない女性が都市では30%、農村部では40%に達していることを紹介しています。また、水道・衛生設備、電力供給、栄養・食料安全保障などへの戦争の影響を指摘、医療機関への大きな損害を指摘しています。
報告は、「イラクには千二百八十五カ所の保健所、百七十二カ所の公立病院、六十五カ所の私立病院があった」が、「公式の推定では〇三年に病院の約12%が破壊され、7%が略奪された」「家族計画サービスを行っていた施設の三分の一が破壊され、地域子ども保健施設の15%が閉鎖された」と指摘。また、多くの病院が下水や廃棄物処理、水道、電力や医薬品・医療器具の供給などで長期的な問題を抱えていると述べています。
また、イラクでは一九九〇年代からの医療専門職の国外流出の傾向がさらに強まったとして、最近の調査では医師は近隣国の半分の人口十万人当たり四十七人、看護師はもっと深刻で人口二千六百万人に一万六千七百人しかいない危機的な状況にあるとしています。
報告は、〇三年四月以降に四百人以上の女性や少女への暴行事件が報告されていることなどをあげ、「治安悪化、とりわけ性的な暴力の現実的な危険が女性や少女の公的な生活―通学、通勤、通院など―への参加だけでなく、外出をも阻んでいる」と述べています。
そして、「〇三年の戦争は、これまでの諸戦争、独裁支配、国際制裁によってもたらされた破壊による保健への脅威を増幅させた。戦争は保健状態をいっそう悪化させる条件をつくり出しただけでなく、イラク社会がそれを回復する能力さえも奪った」と結論。
「勧告」として、被害調査独立委員会の設置のほか、米英占領軍にたいし、▽ジュネーブ条約を順守し、非戦闘員や民間社会基盤への攻撃を停止すること▽人道的援助と軍による救援活動を明確に区分すること▽病院などの医療施設の民間人利用を保障し、軍事的に利用しないこと―などを要求。国連環境計画(UNEP)が劣化ウラン調査をできるだけ早期に実施することも求めています。