2004年12月17日(金)「しんぶん赤旗」
来年一月三十日に実施が予定されているイラク暫定国民議会選挙に向けた選挙戦が十五日、始まりました。米軍は現在も中部ファルージャに対する総攻撃を継続しており、相次ぐ選挙ボイコット表明や武装勢力の蜂起、自爆テロが全土に拡大するなど混乱が広がっています。米軍などの占領下、しかも米軍による軍事攻撃が続くなかでの選挙は、その正当性が問われているだけでなく、今後のイラクにいっそうの混乱をもたらす可能性もあります。 小泉大介記者
選挙は二百七十五人の国民議会議員を選出するもので、完全比例代表で行われます。暫定国民議会は、移行政権を選ぶとともに恒久憲法を起草する任務をもちます。今回の選挙は来年末までの正式政権発足にむけた重要なステップとされています。選挙管理委員会への立候補者リストの提出が十五日に締め切られ、八十を超える政党や会派がリストを提出しました。
イラク人口の約六割を占めるイスラム教シーア派の主要政党・組織は、最高権威であるシスターニ師の影響のもと、「統一イラク連合」として二百二十八人の統一リストを提出。クルド人勢力も二つの主要政党が同様のリストを作成しています。しかし、スンニ派勢力は、同派有力組織のイスラム聖職者協会が米軍のファルージャ総攻撃に抗議して選挙ボイコットを決定。イスラム党などを除き、数十の政党、組織がこれに同調しており、選挙の正当性を問う声が高まっています。
選挙実施にあたっての最大の懸念は治安問題ですが、十一月八日にファルージャ総攻撃を開始した米軍は、現在も同地で大規模な爆撃を続け、住民被害も増えています。「選挙成功のための治安改善」を理由にしたファルージャ総攻撃にもかかわらず、武装勢力の蜂起は中部や北部のスンニ派地域を中心に拡大・激化してきました。十五日にはシーア派聖地カルバラ中心部でも爆弾が爆発し七人が死亡、三十二人が負傷するなど、混乱は全土に広がっています。首都バグダッドでは有権者登録事務所の職員が殺害予告をうけるなどの事態も相次いでいます。
このような状況のなか、イラク国内はもとより、国際的にも選挙の実施を懸念する声が広がっています。ロシアのプーチン大統領は七日に「外国部隊の占領下で選挙をどうやって準備できるのか想像できない」と表明。
米軍の攻撃下でのスンニ派とシーア派の対立激化を危ぐする声も強まっており、エジプトの大統領府報道官は十五日の記者会見で、「選挙を急ぐことは、宗派、民族間の分断をつくりだし、国家を分裂することにつながる」と警告しました。