2004年12月26日(日)「しんぶん赤旗」
とんでもない増税計画がすすみつつあります。自民党と公明党が与党の小泉内閣は、二〇〇五年度予算政府案に所得税と住民税の定率減税の半減(所得税は〇六年一月実施、住民税は同六月実施)を盛り込みました。〇六年度には定率減税を廃止することをもくろんでいます。あなたの家計と日本の経済にどんな影響があるのでしょうか。山田英明記者
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定率減税の半減・廃止は、所得税・住民税を支払うすべての世代に負担増をもたらします。
とくに、大きな痛みを強いられるのは、働き盛り・子育て世代です。
単身世帯か、夫婦世帯か、妻が専業主婦かどうか、子どもがいるかいないかなど、世帯の状況によって、同じ年収でも、所得税は増減します。そのため、定率減税半減・廃止による負担増額も、世帯の状況によって変化します。
例えば、年収四百万円の単身者の場合、定率減税の半減によって年間約二万六千円の新たな負担増となり、全廃されると年間約五万二千円の負担増になります。子どものいない夫婦世帯の場合、夫、妻ともに、それぞれの負担増(単身者と同じ)を合計した額が世帯の負担増額になります。
妻が専業主婦の家庭の場合、子どもがいなければ、年収四百万円では、定率減税の半減で二万一千円の負担増、廃止で四万二千円の負担増となります。十六歳未満の子どもが一人いる家庭では、半減で一万六千円の負担増、廃止で三万二千円の負担増です。
十六歳以上二十二歳未満の子どもがいる四人家族では、年収が七百万円の世帯の場合、半減で四万一千円、廃止で八万二千円の負担増となります。
共働き夫婦(子ども一人)の場合、夫も妻もそれぞれ定率減税廃止の影響を受けます。夫、妻ともに年収四百万円の世帯では、半減で四万七千円、廃止で九万四千円の新たな負担増になります。
定率減税には、減税額に上限が設けられています。そのため、増税率(半減・廃止前の納税額に対する定率減税の半減・廃止による増税額の割合)は、所得の多い人ほど小さくなり、中低所得者ほど、負担増の割合は大きくなります。
「一九九七年と同じ轍(てつ)を踏まないように」「消費税を引き上げ、景気に早過ぎるブレーキをかけた橋本内閣の二の舞いは避けるべきだ」――。日本商工会議所の山口信夫会頭は定率減税縮小・廃止への懸念を語りました。
国内総生産(GDP)統計や景気動向指数など、各種指標が景気減速を示しています。こうした経済状況のもと、総額年間約三・三兆円もの負担増を国民に押し付ける定率減税の縮小・廃止をめぐって、政府や与党内、財界からも、“いっそう景気を冷え込ませる”との懸念の声が噴出しています。
橋本内閣当時の九七年、消費税増税と医療改悪、特別減税廃止という九兆円負担増が、回復しかけていた景気にブレーキをかけ、日本経済にいっそうの不況をもたらしました。いまの経済状況は九七年当時よりも悪化しているのに、大増税に踏み出して大丈夫なのかという懸念です。
小泉内閣がすでに決めた増税と社会保障改悪による負担増は、〇六年度までに年間約七兆円の新たな負担増を国民にもたらします。定率減税の半減・廃止から消費税増税へという大増税路線は、こうした負担増に輪をかけて国民生活を襲います。
民間調査機関の日本総合研究所は「定率減税の半減により個人消費は一・三兆円減少する」と試算しています。大増税と国民のくらし切り捨ての予算が、いっそう消費を冷え込ませ、景気悪化を招くことは必至です。
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“年金の財源確保”“財政再建”を口実に、定率減税半減・廃止、消費税増税への道筋を踏み出した小泉内閣。「大増税」「くらし切り詰め」路線は、消費低迷―景気減速―税収減―いっそうの国民負担増という悪循環を招きかねません。
定率減税半減などの負担増を国民に求める一方、来年度政府予算案(二十四日、閣議決定)には不要不急なムダな予算が計上されています。
主なものだけでも、米軍への「思いやり予算」(在日米軍駐留経費)二千三百七十八億円、本州四国連絡橋公団の赤字の穴埋めのための予算四千八百二十九億円、関西空港の二本目の滑走路などを作る費用三百五十四億円など。
いま必要なのは、こうした予算のムダをただし、大増税とくらし切り詰めの「歳出削減」をやめることです。
税金の集め方と使い道を、国民のくらし優先に改めれば、消費を増やし、経済を活性化させることができます。そうすれば、国の税収増にもつながり、財政再建の道も切り開くことができます。
《語録》 |
●ダメージは覚悟の上
「景気へのダメージを覚悟の上で、(日本を)財政破たんから救うために(定率減税の縮小・廃止に)踏み出したい」(石弘光政府税調会長、11月9日の記者会見)
「2005年度はどのような制度改正になっても経済への負荷は決して大きなものではない」(竹中平蔵経財相、12月10日の記者会見)
●私は臆病になっている
「せっかく3%、4%成長していた95年、96年が97年でだめになってしまった。この印象が非常に強い。だから、私は定率減税の削減に、もっとも臆病(おくびょう)な人間になっている」(柳沢伯夫自民党政調会長代理、12月1日のCSテレビ「朝日ニュースター」で)
「すでに年金保険料の引き上げ等、個人消費にマイナスの影響を与える制度改正も始まっており、ここにきて減速傾向を見せている景気の先行きに悪影響を及ぼすことが心配である」(山口信夫日本商工会議所会頭、12月15日の来年度与党税制「改正」大綱に対するコメント)
「05年度で決めてしまわなければいけないのかどうか、そのところはタイミングをよくお考えいただきたい」(奥田碩トヨタ自動車会長、12月2日の経済財政諮問会議)
「(定率減税縮小・廃止の)対象は中堅サラリーマンであり、今でも年金を含めて大きな負担をしている層に悪い影響が出る」(経済同友会の北城恪太郎代表幹事、10月19日の記者会見)
●失敗の歴史繰り返すな
「日本は、増税という失敗(の歴史)を繰り返すべきではない」(英紙フィナンシャル・タイムズ社説、11月26日付)
定率減税 所得税(国税)と個人住民税(地方税)の税額の一定割合を差し引く減税。現行では、所得税額の20%(最大二十五万円)、個人住民税額の15%(同四万円)を税額から差し引いています。“半減”では、減税額が、所得税額で10%(最大十二万五千円)、住民税額で7・5%(同二万円)に縮小されます。九兆円の負担増(一九九七年)で景気が低迷するなか、所得税・住民税の定率減税は、九九年度の税制「改正」で、景気対策の一環として所得税の最高税率の引き下げや法人税の税率引き下げなどとともに導入されました。 |