2005年2月15日(火)「しんぶん赤旗」 イラク暫定国民議会選挙「占領終結を」の声示す
イラク暫定国民議会選挙(一月三十日投票)の最終結果で、イスラム教シーア派の主な政党が連合した「統一イラク同盟」が第一党となり、過半数の議席を占めました。その「統一イラク同盟」は、米軍主導の多国籍軍撤退スケジュールの設定を公約に掲げました。選挙を棄権したり排除された有権者の多くも外国軍撤退を求めています。今回の選挙で、米軍撤退と占領終結による主権の回復を求める国民の意思をみることができます。新政府の構成や憲法の起草など今後の政治プロセスで、こうした国民全体の意思をどう反映させるか問われています。 (カイロ=小泉大介) 撤退計画の設定掲げる米軍によるファルージャへの総攻撃や武装勢力の抵抗、テロの横行など、不法な戦争と占領下という異常な事態下での「選挙」でした。その下で在外投票を含め、八百五十万人近くが投票しました。 「今回の選挙で『統一イラク同盟』が勝利したのは、多数の有権者が、シスタニ師が支持する組織ならイラクに安定と治安をもたらすと考えたからです。また、同盟が米軍撤退に向けた交渉を行うと表明していたことも勝利の重要な要因です」 バグダッド大学政治学部のナディア・シュカーラ教授は、本紙の電話取材で、こう分析しました。 過半数近くを得票した「同盟」は、イラク人口の約六割を占めるシーア派の最高権威、シスタニ師が支持を表明したこともあり、終始、選挙戦を有利に進めました。そして、選挙公約の前面に「完全な主権をもった統一イラクの実現」「多国籍軍撤退スケジュールの設定」を掲げました。 一方、同じシーア派でも親米路線を鮮明にしているアラウィ暫定政府首相率いる「イラクのリスト」は、首相の地位と豊富な資金によって大メディア作戦を展開したにもかかわらず、得票率約14%で第三位でした。 「統一イラク同盟」の中軸、イスラム革命最高評議会(SCIRI)のハキム代表は繰り返し、「イラクに外国軍の駐留を望んでいる国民はいない」と述べ、また「同盟」の有力候補者でシスタニ師側近でもあるシャハリスタニ氏も「多国籍軍の撤退交渉開始は新政権の義務だ」としてきました。 スンニ派多数が異議
一方、米軍が昨年十一月に総攻撃を開始したファルージャのある西部アンバル州の投票率はわずか2%でした。北部ニネワ州でも17%で、イスラム教スンニ派住民が多数の地域では極端な低投票率になりました。 スンニ派の有力組織、イスラム聖職者協会や同派最大政党のイラク・イスラム党が米軍の攻撃や治安悪化に抗議して選挙をボイコットしたように、国民の二割を占めるスンニ派の多数が、占領下における選挙に異議を唱えました。聖職者協会はいま、外国軍撤退の具体化を目的にした、スンニ派の横断的な組織をつくる動きも見せています。 選挙不参加のシーア派有力指導者ムクタダ・サドル師も不参加の理由を「占領軍が存在しているからだ」と強調し、多国籍軍撤退時期の明確化を要求していました。 各派の立場どう生かすブッシュ米大統領は二日の一般教書演説で「イラク撤退期限は設けない」と言明しました。十一日にイラクを訪問したラムズフェルド米国防長官も「米国に課された仕事は、イラク治安部隊がひとり立ちできるよう支援をつづけることだ」とのべ、長期駐留の立場を示しました。 米政権のこの立場は、政治上も、治安上もイラクにいっそうの混迷をもたらす可能性があります。選挙後も、米占領に反対する武装勢力による蜂起や自爆テロが相次いでいます。この二週間だけで二百人近くのイラク治安部隊員や民間人が殺害されています。モスク(イスラム教の礼拝所)など民間施設への攻撃も激しさを増しています。 選挙結果をうけ、近日中に移行政府の指導部を選出。八月十五日までに恒久憲法案を起草、その後、憲法承認の国民投票と新国民議会選を経て今年中に新政権の発足という日程が決められています。 「統一イラク同盟」は大統領などの選出で必要な三分の二の安定多数を獲得できなかったため、今後の新政府発足に向けては親米派を含むさまざまな勢力との駆け引きが必至です。「同盟」内部にも各派の主導権争いがあります。またイスラム聖職者協会は「選挙に正当性なし」との声明を出しています。今後は、スンニ派の意思をどのように新政府や憲法起草に反映させるかの課題が残ります。 イラクの著名な政治評論家、ワリード・アルズバイディ氏は「勝利した政党には、公約の実現が問われる」と、本紙に次のように語りました。 「イラクでは現在も約三万人の武装勢力を核に、それを支持する二十万人以上の抵抗勢力が存在しています。選挙に参加した国民も棄権した国民も占領終結を望んでいることは明白です。米政権がイラク国民のこの願いを無視すれば、情勢はさらに混迷し、危険なものとなるでしょう」 |