2005年2月24日(木)「しんぶん赤旗」 ブッシュ大統領訪欧“表面的な雪解け”イラン、温暖化問題接近なし訪欧中のブッシュ米大統領は22日、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)の首脳会議に出席、その前夜にはイラク戦争で鋭く対立したシラク仏大統領との会談も行い、ギクシャクした米欧関係の修復をアピールしました。しかし米欧間に横たわる数々の対立課題で実質的な合意は乏しく、「表面的な雪解け」(仏フィガロ紙)との見方が大勢です。 (パリ=浅田信幸) 二十一日夜ブリュッセルの米大使公邸で行われた米仏首脳夕食会では、イラク戦争中、米国でフランスへの反発から「フリーダムフライ」の名に変更されていたポテトフライが「フレンチフライ」の名を復活してテーブルに出されました。NATO首脳会議でもEU首脳会議でも発言のトップはシラク大統領でした。 占領の負担増大イラク戦争をめぐって対立した仏独に対しブッシュ政権は、「ドイツは無視し、フランスは罰する」という態度で、特にフランスを目の敵にしてきました。米国はフランスとの関係修復を印象づけることで、「大西洋間の結束の新たな時代」(ブッシュ大統領)の宣伝効果をねらいました。 関係修復には米欧それぞれの思惑がありました。 米国にとってイラク占領の重荷はますます増大し、財政負担も限界に近いのが現状です。中東問題や中東「民主化」でも欧州の協力は不可欠になっています。同盟国との亀裂修復は緊急課題です。ブッシュ大統領が再選直後から「同盟国との協調」(就任演説)を掲げるのもこうした背景からです。 欧州側も模索中欧州側としてもブッシュ大統領の再選という現実を前に新しい対米関係を模索中です。この意味で、今回のブッシュ大統領の訪欧はギクシャクした関係を調整する儀式とみることもできます。しかし、個々の具体的課題となると、新たな合意にほとんど見るべきものがありません。 国際研究調査センターのピエール・ハスネル調査部長は、仏リベラシオン紙のインタビューで、米仏関係の「新時代」というよりも「新しい局面」でしかないとし、「新時代という言葉を使いたくても、首脳会議の最中しか使えない」「米国は、必要なときに役立つ道具箱としての同盟を期待している」と指摘しています。 欧州諸国首脳は核開発問題がくすぶるイランとの関係、中国への武器禁輸解除問題、地球温暖化問題などで、欧州側の立場を遠慮なく表明しました。 しかしブッシュ大統領は、イラン問題でEUが行っている交渉について、口先で「支持」はいうものの、共同歩調をとる気はありません。ハスネル氏はこう解説します。 「どうせ国連に問題が移ると考えながら、欧州にやらせておく。国連では中国かロシアが対イラン非難に拒否権を行使するだろう。そこでワシントンはこう主張できる。『すべて試みた。もはや攻撃するしか解決策はない』と」 中国への武器輸出問題では、シラク大統領が「カナダは禁輸措置をとっていない。オーストラリアは禁輸を解除した」と主張したのに対し、ブッシュ大統領は「重大な懸念」を繰り返すばかり。地球温暖化問題では欧州側の意見を聞くだけでした。 これらは今日の国際政治の重要課題です。表向きの協調の一方で、これらの点での不調和の意味は決して小さくありません。 ただ一つ合意といえるのは、NATO全加盟国が一致してイラク治安部隊の訓練で支援を約束したことでした。しかし、それも「限定的なものにとどまる」(仏ルモンド紙)見通しです。 米国抜きで進む国際秩序ブッシュ米大統領の二十一日からの訪欧では、欧米関係の修復が華々しく演出されました。しかし、これは、従来の米欧同盟関係への復帰ではなく、両者の関係が新たな段階に入ったもとでの再接近です。 四年前の9・11対米同時テロ以降、対アフガニスタン報復戦争から対イラク先制攻撃戦争へと突き進んだ米国。アフガン戦争段階で米国に共感を示していた欧州諸国は、「対テロ世界戦争」がイラクに拡大すると急速に米国離れを強めました。 覇権主義が破たん戦争拡大に大きな影響力をもったネオコン(新保守主義者)のロバート・ケーガン氏はこれを、「法の支配」という「楽園」に暮らす欧州と、「ジャングルのおきて」が支配する世界で軍事力に依拠する米国との対立だと表現。圧倒的軍事力をもつ米国の覇権という今世紀の現実を受け入れよと欧州に迫りました。 ところが米国の軍事中心の覇権主義は大きく破たんし、イラク情勢は安定からほど遠い。底なしで拡大する軍事費のため、双子の赤字が急速に膨らんでいます。行き詰まってのやむない選択が、欧州主要諸国との関係修復でした。 根底には、米欧関係と世界秩序の構造的変化があります。ブッシュ政権が軍事的単独行動主義に駆られて「対テロ戦争」に突進していた間、世界では、当面は米国抜きでも国連中心の平和秩序を前進させる動きが静かに進んでいます。 米国が妨害を重ねても国際刑事裁判所は一昨年に発足。米国の一方的離脱にもかかわらず温暖化防止のための京都議定書は二月十六日に発効―これらが代表例です。 「いなくても済む」米ブルッキングズ研究所パービス研究員は、議定書発効が示しているのは「米同盟諸国がますます米国抜きで国際的議題を設定していることだ」と指摘しました(インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙昨年十二月十五日付)。ニューアメリカ研究所リンド上級研究員は、欧州連合(EU)自立化、東南アジア諸国連合(ASEAN)、南米共同体などを挙げ、今や米国が世界で「不可欠の国」から「いなくても済む国」に転化したと喝破しています(英紙フィナンシャル・タイムズ一月二十五日付)。 ブッシュ政権は、先制攻撃戦略、単独行動主義、反米政権打倒、核使用政策などの戦略の基本を変えていません。二十二日のブリュッセルでの記者会見でもブッシュ氏は「米国の戦略が機能していることを彼ら(欧州側)は分かり始めている」と開き直りました。 欧米間の懸案事項でも、イラン問題では軍事力使用の選択肢を排除しないと繰り返し、EUの対中武器禁輸解除にも報復を示唆しました。対イラン、対中国政策の相違に現れているのは、欧米の世界秩序論の対立です。 国際秩序の変化のもと、依然として自国の戦略遂行を「後援するパートナー」を欧州に求める米国に対し、欧州側は、欧州と米国が「真のパートナー」(二十二日のNATO首脳会議でのシラク仏大統領の演説)となる、二つの極の対等な関係の確立を迫っています。 (坂口明) |