2005年3月26日(土)「しんぶん赤旗」

学生無年金障害者訴訟

東京高裁

原告側が逆転敗訴


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報告集会に参加する原告の福島敏彦さん(左)と小酒井秀市さん(右)=25日、東京・弁護士会館

 東京高裁(宮崎公男裁判長)は二十五日、学生無年金障害者訴訟の控訴審で、一審の東京地裁判決を覆し、国の主張を全面的に認める原告敗訴の逆転判決を出しました。

 この訴訟は、二十歳を過ぎた学生の国民年金加入が任意とされた一九九一年三月以前、未加入のまま障害を負い障害年金を不支給とされた元学生が全国九地裁で訴えているもの。

 東京地裁は、昨年三月、一九八五年の国民年金法改正で、学生を任意加入のままにし、無年金障害者救済の立法措置を講じなかったのは法の下の平等を定めた憲法一四条に反すると断じ、元学生の小酒井秀市さん(44)ら三人に計千五百万円を支払うよう国に命じていました。

 東京地裁に続き、新潟(同十月)、広島(三月三日)の各地裁がそろって無年金障害者を救済しなかったことを「立法不作為」による違憲と認定していました。

 今回の判決は、八五年法改正について、憲法違反状態が生じていたとは言えず、「過去の無年金者をどう取り扱うかは国の裁量の範囲内で、さかのぼって救済する義務はない」と立法不作為を否定。八五年法改正について三地裁がそろって認定した違憲状態という判断と逆の判断をしました。

 その上で、三人が求めていた、年金不支給取り消しと国家賠償支払いの請求を棄却しました。

 判決後、小酒井さんら原告は、上告して争う意向を表明しました。


解説

救済の流れを無視

 学生無年金障害者訴訟での東京高裁の判決は、きわめて冷酷なものでした。

 「障害による稼得能力の喪失に対する備えは、本来、各個人又はその扶養義務者においてなすべきもの」とのべています。

 障害者の自立について、個人に責任がある、肉親が面倒をみるべきだと公然と言い放っているのですから驚きです。

 原告、弁護団、支援者からこの内容に批判と怒りの声が上がりました。

 原告らは、障害を負ってから二十年前後、年金支給請求が拒否され、審査請求、再審査請求をし、そして裁判へ。重度の障害で多くの元学生は、日常生活も経済的にも高齢の両親に支えられてきました。判決は、長い年月苦闘している元学生と家族への思いやりのかけらもありません。

 しかも、判決はこれに続けて「国家がこれに救済措置を講ずるのは、後見的な見地からの社会福祉的措置ということもできる」と国の義務を弱めました。これは、憲法二十五条二項の「国の社会保障的義務」との関係で今後論議をよびそうです。

 控訴審の焦点は、無年金障害者を生み出している制度を放置した一九八五年改正について、一審で「立法不作為による違憲」としたことをどう判断するかでした。

 高裁はこれについて、「二十歳前に障害を負ったものと二十歳以後に障害を負った学生との取り扱いの差異は、立法者による裁量の範囲内の制度選択である」などと国会の裁量権を大きく広げることにより、「立法不作為による違憲」との判断を退けました。

 現実に多くの無年金障害者が苦しんでいます。原告勝訴の地裁判決が続き世論と運動の高まりの中で、無年金障害者の元学生と主婦に月五万円(一級)四万円(二級)を支給する特別障害給付金制度が議員立法でつくられ、四月から申請受け付けが始まります。こうした無年金障害者救済の流れをも無視した判決です。

 (鈴木進一)


「血も涙もない判決」

原告・弁護団が激しい憤り

 「血も涙も感じさせない判決」「到底、承服できない」―。学生無年金障害者訴訟で東京高裁(宮崎公男裁判長)が逆転敗訴判決を言い渡したのを受け、学生無年金障害者(東京)原告団・弁護団は二十五日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見し、激しい憤りの声を上げました。

 「非常に残念です」。原告の福島敏彦さん(40)=青梅市=は、心境を話しました。判決言い渡しの瞬間、静まりかえった法廷で、「あっけにとられ、目が点になる思いだった」といいます。「上告の方向でいきたい」ときっぱりと、決意を語りました。

 同じく原告の小酒井秀市さん(44)=西東京市=も「ひどいとしか言いようがない。両親が高齢なので、(国側が)控訴したことだけでも罪が重いのに」と声を震わせました。

 代理人の高野範城弁護士は「高裁は、こちらの申請した証人尋問も認めず、国側は誰一人新しい証人を出さなかった。それなのに、なぜ覆すのか」と厳しく批判。「結果ありきの判決、承服できない」と憤りました。

 新井章弁護士も「一審判決に社会的な妥当性があったことは、国会が重い腰を上げて、新しい福祉手当を立法したことからも分かる。きょうの判決は、あえてその流れに矢を引いたもの」と批判しました。


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