2005年4月10日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 郵政民営化

首相裁定の「法案骨子」

郵政民営化やっぱり問題


 郵政民営化を「改革の本丸」に掲げる小泉純一郎首相は、首相裁定で民営化法案の骨子を決めました。法案調整のため竹中平蔵郵政民営化担当相は、衆院総務委員会を欠席。審議ができないという異常な事態まで発生しています。小泉首相は、自民党内の民営化反対論者には「解散」で脅しつけています。国政を揺るがす郵政民営化法案骨子がもつ危険性とは……。

 (金子豊弘)



民営化後 避けられない統廃合

民間では もうけ本位に

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 昨年九月に決定した郵政民営化の基本方針では、国営の郵政公社を廃止し、二〇〇七年四月に株式会社化する方針を決めました。現在、一体で運営されている郵便、貯金、簡易保険の機能をわけます。そして、窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社の四つに分社化します。

 四つの事業会社の上に持ち株会社を設立します。窓口ネットワーク会社と郵便事業会社の株式は持ち株会社が全額保有。一方、郵便貯金会社、郵便保険会社の株式は売却するとしていました。

 四日に決まった法案骨子では、郵貯・簡保会社の株式を十年以内に完全売却することを法案で義務づけることをうたいました。民営化の「名も実も」とった格好です。

 郵貯・簡保会社が利潤追求を優先する株式会社になれば、不採算地域からの撤退も自由です。

 もともと郵便局は郵貯事業の収益が中心です。民営化後、郵貯会社を柱にした委託料で成り立つ郵便局の経営が成り立たなくなり、統廃合は避けられません。

 「地域から郵便局が消える」との批判にたいし、法案骨子では修正を加えました。しかし、修正を加えても、郵便局の統廃合は必至です。

 郵便局の全国配置の義務付けや株式売却益などをもとにした基金を創設します。といっても、株式会社となった郵貯・簡保会社のもうけ本位の経営を公共性の観点からしばる措置はありません。

 新たに創設する基金の規模は一兆円がメドです。郵便局の統廃合の歯止めにするために使います。でもこの金額で十分という保証は、なんらありません。

 いったん売却した株式を買い戻すことができることも盛り込みました。しかし、赤字化しかねない窓口会社と郵便会社には株を買い戻す余裕など生まれないでしょう。

 結局、実際には、郵便局の統廃合による国民へのサービス低下をともないつつ、新たな巨大民間金融機関を誕生させる結果になるだけです。

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い ま 国民の安全・安心の場

国営ならではのサービス

 郵便局は、家から一キロほどの圏内にあって、もっとも身近な公的機関です。年金の受け取りや公共料金の引き落としなどに利用しています。年賀状や暑中見舞いも郵便局。日本の伝統・文化、風流の担い手でもあります。

 郵政事業は二〇〇三年四月、日本郵政公社に移行して非営利の国営形態でユニバーサル(全国一律)サービスを提供しています。独立採算で税金を一切使わず、事業を離島や過疎地にも展開。市町村合併や農協の合併、地方銀行や信金・信組の支店がなくなった地域で、郵便局は暮らしを支える安全・安心の場になっています。

 全国津々浦々に二万四千七百の郵便局があります。まちかどの郵便ポストは総数で十八万六千本。全国一律の料金で手紙やはがきを配達しています。

 安全・確実な郵便貯金の口座数は約一億一千八百万です。日本の人口にほぼ匹敵。一千万円以下の小口貯金は、文字通り庶民金融です。しかも、現金自動預払機(ATM)の引き出しや両替手数料は無料です。時間外の引き出しが百五円、百円玉を両替すると三百十五円かかる東京三菱銀行などの民間銀行とは対照的です。

 職業の区別なくだれでも加入できる生命保険(簡易保険)も国民に提供しています。過疎地では、自治体と連携して「ひまわりサービス」を実施。現在、二百十の市町村で、独り暮らしのお年寄りへの声掛け、生活用品購入の手助けなどを行っています。

 昨年十月に発生した新潟県中越大震災。郵便局は被災地でも頼りになる存在でした。民間の宅配大手各社が、集配を見合わせるなか震災直後から小包の配達や現金書留も取り扱いました。利潤目的ではない国営だからこそできた対応です。


民営化不要 自ら裏付け

 なぜ、郵政民営化なのか。小泉内閣は当初、「国営は民業を圧迫する」といっていました。次は、「国営だからジリ貧になる」と、説明をくるっと百八十度転換。そうかと思えば、ばら色の予測収益をはじき出したり。民営化がなぜ必要なのか、「そもそも論」は迷走を続けました。

 今回の法案骨子は、民営化する必要がないことを、みずから裏付ける皮肉な結果になっています。

 郵便局の全国設置について、昨年九月の基本方針では、「努力義務」でしたが、法案骨子では「義務」にしました。

 郵便局の全国設置を義務付けるのであれば、郵政公社とまったく同じです。だったら、現行のままの公社形態でどこに不都合があるのでしょうか。一度は完全に売却した株式を、買い戻すことができるともいいます。株式を持ち合い、一体経営を認めるのであれば、なぜ分社化する必要があるのでしょうか。

 一体経営を行っている郵政公社の経営形態を変更する理由はまったくありません。


国民よりも財界・アメリカの声

グラフ

 三月に発表された時事通信社の世論調査によると、「公社のままサービス改善等を進めるべきだ」(14・7%)、「慎重に判断すべきだ」(54・9%)、あわせて七割の人々が民営化に批判的でした。

 国民の声を一切聞かず、「独裁的手法」で突き進んでいるのが小泉首相です。一方、耳を傾けているのが、財界と大手金融機関、そしてアメリカからの声です。

 昨年九月の全国銀行協会主催の集会決議。「国営の郵便貯金が行う意義はもはやなく、本来であれば廃止することが望ましい」といいきりました。財界総本山の日本経団連の意見書では、「郵政民営化の着実な実現を望む」とうたっています。経済同友会は、発表された法案骨子について、郵貯・簡保の株式の完全売却の方針を「評価できる」とのコメントを発表しました。

 かたやアメリカ政府。昨年十月に発表した規制緩和のアメリカ政府の要望書では、「日本郵政公社の民営化という小泉首相の意欲的な取り組みに特に関心をもっている」「民営化は意欲的かつ市場原理に基づくべきだ」と要求しています。米金融業界の意向を受けたものです。

 在日米国商工会議所は、法案骨子についてコメントを発表。「(郵政民営化は)市場原理に基づいて行われるべきである」と注文をつけています。

 国民が反対しようが、理屈がなかろうが、なにがなんでも「民営化先にありき」の小泉首相の独断的姿勢。その愚行を支えているのが、財界と金融機関、アメリカなのです。


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