2005年4月23日(土)「しんぶん赤旗」
学生無年金 不支給取り消し
20歳未満発症認める
憲法判断は踏み込まず
福岡地裁
二十歳を過ぎた学生の国民年金加入が任意だった一九九一年三月以前に重い障害を負い、障害基礎年金支給を拒否された福岡県の男性(39)が不支給処分は違憲・違法であるとして、不支給決定の取り消しと国家賠償を求めた訴訟で、年金支給を認める判決が二十二日、福岡地裁で言い渡されました。
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判決によると、男性は一九八四年夏に統合失調症の前兆期の症状が出始め、二十歳の大学生だった八六年に統合失調症と診断されました。九八年に障害基礎年金の支給を請求したが拒否されました。不支給は法の下の平等などに反し違憲と主張していました。
一志泰滋裁判長は「統合失調症の場合は一般の傷病と異なり症状が目立たず、確定診断がなされない場合もある」として「確定診断がないことで年金支給を拒むのは許されない」と指摘、二十歳未満時に発症していたことを認め不支給処分を取り消しました。
国家賠償については、年金支給できるので、その理由はないとしました。二十歳後の学生が国民年金に未加入のまま重い障害を負っても障害基礎年金が支給されない違憲性については、憲法判断を示しませんでした。
同様の訴訟は、全国九カ所で三十人が提訴、東京、新潟、広島の三地裁は、違憲と判断しています。その後、東京高裁は国の裁量権だとして違憲とはいえないと原告逆転敗訴の判決。全国から不当と批判があがっています。
国は控訴しないで
厚労省に申し入れ
学生無年金障害者訴訟の原告勝訴の福岡地裁判決を受け、学生無年金障害者原告の会、弁護団全国連絡会、学生無年金障害者訴訟全国連絡会(吉本哲夫会長)は二十二日午後、東京・霞が関の厚生労働省を訪れ、控訴せず判決に従い年金を支給するよう申し入れました。社会保険庁の年金保険課長らが応対しました。
原告の父は「私はがんとたたかっている。三十九歳の息子のことを考え、苦しくても解決を目指して活動してきた」と発言しました。
高野範城弁護士は「原告の親は高齢にもかかわらず、親なき後の子どもを心配して裁判に立ち上がっている。国は控訴することによって長期間争うようなことはやめてほしい」と強調。判決文の意図するところを理解してほしいと要請しました。
社会保険庁の植田堅一年金保険課長は「判決文を読みしっかりと検討していく」と答えました。
家族ら「光が見えた」
「無年金障害者に光が見えた」「憲法判断に踏み込まなかったが、救済の勝訴判決だ」――。二十二日、障害基礎年金支給を認めた福岡地裁判決に、無年金障害者と家族らの喜びの声が相次ぎました。
福岡地裁判決は、全国の学生無年金障害者の裁判で精神障害では初の判断です。
法廷には、入院中の原告に代わって両親が出席。判決後、父親(73)は「たくさんの無年金の精神障害者の救いだ。精神の障害者には、家族に負担をかけていることが心の重荷。自分の年金で生活できることは心の安定につながる」と喜びを語りました。
弁護団・支援者は判決後、福岡市内で報告集会を開き、「精神障害だと、多くは初診が遅れる。それを救う判決だ」「光が見えた」と笑顔で喜び、「本当に憲法二五条にもとづいて安心して生活できることを願っている」と語りました。
原告の母親(68)は「学生無年金ということだけでなく、いろんな形で無年金になっている方がいらっしゃるので、みんなに日が当たるようになってほしい」と話しました。
社会保障法の専門家、河野正輝熊本学園大教授は「行政実務の初診日の判断を変えるもので、大きな影響を与える判決だ」と評価しました。
全国弁護団の石口俊一弁護団長は「憲法判断はないが、全国の無年金障害者の方々に心強い判決だ。無年金障害者救済へ流れを戻す判決だ」とのべました。