2005年4月29日(金)「しんぶん赤旗」

郵政民営化

猪突猛進

背景に日米金融界の要求


 小泉首相が「構造改革」の本丸と位置付ける郵政民営化法案が閣議決定されました。理屈が破たんしようが、国民が反対しようが、自民党内で反発が出ようが、なぜ突き進むのでしょうか。その背景には、日米金融界の強い圧力がありました。

 (金子豊弘)


米生保協会 “もうけ口”

全銀協 “郵貯を渡せ”

写真

庶民の金融機関を守ることは国民的要求です=「STOP!郵政民営化」の横断幕を掲げたキャラバン出発集会=2日・札幌市

 「簡保は、競争をゆがめ、市場機能に打撃を与え、民間企業から仕事を奪っている」。国営の郵政公社があるために日本での“もうけ口”が奪われているといわんばかりの発言は、アメリカのキーティング生命保険協会会長です。

 キーティング会長は、ブッシュ大統領の盟友として知られています。米生命保険協会は、郵政民営化を求めた声明を繰り返し出し、米政府に圧力をかけてきました。

 キーティング会長が先の発言をしたのは昨年三月のこと。このとき同協会は「拡大する日本の簡易保険事業」と題する報告書を公表。「(アメリカの保険会社も)民営化に関する議論に意義ある参加を認められるべきである」と露骨でした。

 この圧力の下、ブッシュ米政権は昨年十月、日本への規制緩和要求書の中で「日本郵政公社の民営化という小泉首相の意欲的な取り組みに特に関心をもっている」と、簡保事業を外資にも“開放”することを求めています。

 一方、日本の金融界はどうでしょうか。日本の大手銀行が集まる全国銀行協会の前田晃伸会長(みずほフィナンシャルグループ社長)は四月十九日の就任会見で、「現在、郵貯が行っている業務については、かなりの部分を民間金融機関で代替することが可能」と、民間銀行に“郵貯を渡せ”と要求しています。

 小泉内閣が郵政民営化の必要性を説明できないのは、それが日米の金融業界の要求だからです。

国民の安心は切り捨て

図

 国営の郵政公社は全国津々浦々で事業を進めてきました。過疎が広がる地域では住民の暮らしを支える存在です。

 今回、小泉内閣が閣議決定した郵政民営化法案は、郵便、貯金、簡保という郵政三事業をバラバラにします。持ち株会社を新設し、郵便会社と窓口会社の株を100%保有する一方、郵貯会社と簡保会社は、株式を売却し民営化します。この二社には全国一律サービスの義務付けはありません。

 もうけ優先の民間会社が、過疎地ばかりでなく都市部でも、不採算であれば撤退することは、大手銀行の支店が次々と撤退していった事実を見ても明らかです。安全・安心の郵政事業を、もうけを優先する民間会社にすることは、住民の暮らしを切り捨てるのと同じです。

 この間、法案を巡って繰り広げられた政府と自民党の「ドタバタ劇」。郵政が民営化されれば地域の郵便局の統廃合が進む、ということを自ら認めたものでした。

 全国一律サービスを維持するためとして創設される「地域・社会貢献基金」を一兆円積み立てるとしました。運用益を交付します。一局あたり六百万円を二千局に交付することを想定しています。

 しかし、郵便局の赤字局は一万一千を超え、赤字額は一局平均一千万円以上です。とても足りるものではありませんが、この基金を設けること自体、民営化されれば郵便局の統廃合が進むことを「自白」したようなものです。

 また、いったん売却した郵貯会社と簡保会社の株式を、買い戻すことを認めました。本気で、株の持ち合いによる一体経営の必要性を認めるのであれば、なぜ分社化するのでしょうか。現在の郵政公社の形態でなんら支障はありせん。

 しかし法案は、郵政事業をバラバラにする分社化を進めるものになっています。株の持ち合いの容認などは、小手先の「修正」にすぎません。

 さらにこの法案の問題点は、「民間にゆだねることが可能なものはできる限りこれにゆだねる」と、郵政事業に限らず一般論として記していることです。

 だからこそ、日本経団連もこの法案について「構造改革の重要な柱であり、この法案が成立すれば、他の改革施策も加速することが期待される」(奥田碩会長のコメント)としているのです。

 しかし、民営化によって国民の安全・安心よりもうけが優先されることは、JR福知山線の列車脱線事故が示しています。

 郵政民営化法案はきっぱり撤回し、国民への基礎的な通信・金融サービスを提供するという本来の役割を発揮することが求められます。


図(郵政民営化の流れ)

法案骨子

 一、二○○七年四月一日に日本郵政公社を解散、持ち株会社(日本郵政)の下に事業会社(郵便事業、郵便局、郵便貯金、郵便保険)を設立

 一、情報システム開発が大幅に遅延し、民営化の円滑な実施に著しい支障を生じる恐れがあるときは、民営化の時期を○七年十月一日とする

 一、政府は保有する日本郵政(持ち株会社)株式の三分の一超を残しできるだけ早期に処分

 一、日本郵政が保有する金融二社株は移行期間中に全部を処分

 一、民営化推進のため郵政民営化推進本部、郵政民営化委員会を設置

 一、日本郵政が社会・地域貢献基金を積み立て、郵便事業会社、郵便局会社の社会・地域貢献事業に交付する

 一、内容証明、特別送達の認証を行う「郵便認証司」制度を創設


新たな利権の巣になる危険

法案ではメス入れず

 郵政事業でメスを入れるべきは、自民党による私物化や郵政官僚の「天下り」先になっている多数の「ファミリー企業」の利権や不正です。

 閣議決定した法案では、この問題はまったく手がつけられていません。しかも、郵貯・簡保の株の持ち合いを認める一方、民間並みに業務範囲を拡大することを促しています。

 これでは、「天下り」先がさらに増え、自民党の新たな利権の巣になる危険が広がるだけです。


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