2005年5月9日(月)「しんぶん赤旗」
イラク混迷 国民は…
政争や大規模テロ続発 失望
願い 米占領軍の撤退と独立
イラクで新たな移行政府が発足した四月二十八日以降、武装勢力による大規模な攻撃やテロが連日発生し、この十日間で三百人以上が命を落としました。今年一月末の暫定国民議会選挙で、主権国家樹立に期待し命懸けで一票を投じたイラク国民は現在の事態をどう考えているのでしょうか。(カイロ=小泉大介)
最近の攻撃の特徴は、米軍やイラク軍・警察を標的にしたものに加え、宗派・民族間の分断を狙ったとみられるテロが激化していることです。四日には北部アルビルでクルド政党事務所が爆破(六十人死亡)され、六日にはバグダッド南方のイスラム教シーア派住民居住区で市場への爆弾攻撃(三十一人死亡)が発生しています。
テロ攻撃批判
イラク人の圧倒的多数は、占領への抵抗闘争と相いれないテロ攻撃を厳しく批判し、治安の回復を切実に願っています。同時に、治安回復に責任を持つべき政治の不在が状況悪化に拍車をかけているとする声が高まっています。
選挙でクルド政党連合「クルディスタン同盟リスト」に投票した警官のサマン・アブデルカーデルさん(22)は本紙に対し、「イラク国民は新しい政府の発足が遅れたことにがっかりしています。私は個人的にクルド人のタラバニ大統領を尊敬していますが、イラク国民がいま求めているのは、自らの利益のためでなく国民のため、国民の安全のために働く指導者です。残念ながらそのような政治家は見当たりません」と語りました。
イスラム教スンニ派のヤワル副大統領率いる「イラク人」に投票した女性のボシュラ・アリさん(36)も、「選挙までは希望を持っていましたが、いまは失望の気持ちでいっぱいです。政治指導者は閣僚ポスト争いにばかり熱心で、治安回復という国民の最大の願いに応えようとしていません」と嘆きます。
暫定国民議会選挙のあと、各政治勢力間の駆け引きが延々と続き、移行政府の閣僚名簿が議会に承認されるまで実に三カ月を要しました。三日には移行政府が正式に発足しましたが、その時点でも七つの閣僚ポストが空白という状態。武装勢力は、この混乱と国民の不満に乗じて攻撃を激化させています。
イラク国民はさらに、事態の根本問題も厳しく指摘しています。
イスラム教シーア派政党連合「統一イラク同盟」に投票したという元国家警備隊員のムハンマド・サイードさん(45)は「テロが米軍など外国軍の駐留継続に対する反発として激しくなっていることは明らかです。米占領軍に混乱の最大の責任があることは間違いありません」と断言しました。
占領続く限り
暫定国民議会選挙では、多数の国民が米軍撤退と独立した国づくりへの願いを託し、公約で「多国籍軍の撤退日程の設定」を掲げた「統一イラク同盟」が過半数の議席を得ました。にもかかわらず、ブッシュ米政権は「撤退日程の設定」にすら背を向けたまま。一方、タラバニ大統領は米軍駐留継続を求める意思を表明しています。
米テレビの契約カメラマンで、選挙では暫定政府首相をつとめたアラウィ氏率いる「イラクのリスト」に投票したというラアド・アスアドさん(31)。「政治家は選挙での約束を何も実行していません。武装勢力の攻撃激化は、国民の政治に対する不満を背景にしています」とした上でこう言いました。
「米軍がイラクの新政府づくりでさまざまな干渉を行い、それが政治の混乱をもたらしたことははっきりしています。占領が続く限り、どのような政府であっても、国民の望む本来の役割を果たすことは不可能です」
イラクの著名な政治評論家、ワリド・アルズバイディ氏も「米軍が占領状態を継続するために今後も新政府に圧力をかけることは必至で、これでは武装勢力の攻撃がやむことはないでしょう。事態を改善するには、少なくとも占領軍の撤退日程を明確にすることが必要です」と強調します。
現在のイラクの混乱は、イラク戦争・占領の誤りと破たんを改めて浮き彫りにしています。この見方はイラク国民だけでなく、アラブ世界に共通したものとなっています。エジプトのアルアハラム紙七日付社説は次のように指摘しました。
「新たな暴力の波は、占領がつくり出した無秩序に直接の原因がある。米軍とイラク新政府が占領軍撤退日程の設定という国民の願いを無視し続けるなら、イラク人のより広範な怒りを呼び起こすだろう」