2005年5月17日(火)「しんぶん赤旗」
差し止め取り消す
福岡高裁 漁民ら怒り・抗議
諫早干拓
国営諫早湾干拓事業の工事差し止め佐賀地裁仮処分決定を国が不服とした抗告審で、福岡高裁(中山弘幸裁判長)は十六日、工事差し止め仮処分を取り消しました。
中山裁判長は「諫早干拓工事と有明海の漁業環境悪化との関連性を否定できないが、その割合・程度という定量的関連性を認めるまでにはいたらない」としました。因果関係の立証について、「一般の場合に比べて高くなる。いわゆる証明に近いものが要求される」とし、漁民側がそこまで立証していないとしました。
佐賀地裁は、最高裁判例にのっとって、「因果関係の立証としては一点の疑義も許されない自然科学的証明ではない」として、同工事が有明海の環境悪化と漁民被害を引き起こしたと認めていました。
漁民、弁護団は高裁前で報告集会を開き、「司法の自殺行為だ」「漁民を何人殺すつもりか」と怒りと抗議の声をあげました。長崎の漁船漁業者、橋本武さんは「はいつくばってでも、あきらめるわけにはいかない。元の宝の海を取り返す」と訴えました。
馬奈木昭雄弁護団長は、「非常識な決定だ」と批判。夏ごろまでに予想される公害等調整委員会(公調委)の結論で因果関係が確定し、高裁の判断の不当さはくつがえると指摘。「こじあけてでも水門を開け、有明海をよみがえらせる」と語りました。
「極めて不当」市田書記局長
日本共産党の市田忠義書記局長は十六日、国会内で開いた記者会見で、国営諫早湾干拓事業差し止めの地裁決定をくつがえした福岡高裁の決定について、「諫早湾干拓と有明海の漁業環境悪化の関連性を認め、その因果関係は否定できないとしながら、差し止めを却下するのは極めて不当な判断だ」と批判しました。
市田氏は、回復不可能な環境破壊につながる可能性が高い場合は、因果関係が不明確であっても、開発等をおこなうべきでないという「予防原則」は欧州でも趨勢(すうせい)になっていることを指摘し、高裁決定は「環境の問題を全く理解していないものだ」とのべました。