2005年5月18日(水)「しんぶん赤旗」
主張
諫早湾干拓
有明海再生に国は開門調査を
福岡高裁が、諫早湾干拓事業の工事続行の禁止を命じた佐賀地裁の仮処分決定を取り消しました。
福岡高裁の決定は、「諫早湾干拓工事と有明海の漁業環境の悪化との関連性を否定できない」としながら、工事差し止めを却下しており、つじつまがあいません。廃業が相次ぎ、自殺者さえもあとを絶たない有明海漁民の深刻な被害を直視しない不当な決定です。
因果関係を認めながら
裁判で争点となったのは、諫早湾干拓事業と有明海異変、漁業被害との関係です。
昨年八月二十六日の佐賀地裁の仮処分決定は「因果関係が認められる」から「工事は続行してはならない」と国に命じました。
今年一月、国の異議申し立てを退けた佐賀地裁決定は、因果関係を認めるとともに、「漁業被害を将来的に防ぐためには、工事の差し止めが、現時点でとりうる唯一の最終的手段」とのべました。
今回の高裁判決も、干拓事業と漁業環境悪化の関係を否定していません。
ところが、干拓事業と漁業環境悪化の関連性について、漁民側が“もっと詳しく立証しなければならない”“立証が不十分だ”といって、工事差し止めを取り消しています。
そもそも、干拓事業と有明海異変との関連性について、検証を妨げてきたのは国側です。
二〇〇〇年暮れから翌年春まで有明海全体に赤潮が発生し、ノリ養殖に壊滅的な被害が出たのを契機に、世論におされ、農林水産省はノリ不作等検討委員会(第三者委員会)を設置しました。
同委員会は、二〇〇一年末、事業の検証に役立つとして、潮受け堤防の水門を開け、調整池内に海水を入れて、半年から数年にわたる中・長期の調査をするよう提言しました。しかし、農林水産省は、これを拒み、工事完成を急いできました。
検証をサボってきた国の態度こそ問題です。漁民に詳しい立証を求める高裁決定は、責任を転嫁するものです。
その一方で、高裁決定が国の責任を重大視して、次のようにのべていることは重要です。
国は「ノリ不作等検討委員会が提言した、中・長期の開門調査を含めた、有明海の漁業環境の悪化に対する調査、研究を今後も実施すべき責務を有明海の漁民に対して一般的に負っている」。
中・長期開門調査について、昨年五月、農林水産相が「見送り」を表明しています。高裁決定は、国の決定を覆すものです。
諫早湾干拓事業は、事業の必要性・合理性を見いだせないまま、環境を破壊するという、無駄な大型公共事業の典型です。
工事の再開やめよ
国は、“諫早湾干拓事業と有明海の漁業被害は無関係”と言い続けてきましたが、高裁判決でさえ、その言い分を退けています。強く拒んできた開門調査を国に迫る道筋もつくることができました。
二度にわたる佐賀地裁の決定も、漁民の主張を励ますものです。
国は、高裁決定を受けて「工事の再開を急ぎたい」としていますが、これまでの司法判断のどれもが、工事の許可を与えるものではありません。
国は、高裁決定が義務とした中・長期の開門調査をはじめ、有明海再生にむけたとりくみを始めるべきです。そのためにも、工事の再開はやめることを求めます。