2005年5月20日(金)「しんぶん赤旗」
主張
郵政民営化
大切な宝を壊す法案は撤回を
小泉内閣は、郵政民営化法案を今国会で成立させるため、衆院で特別委員会の設置を強行しようとしています。
これまで郵政を議論してきたのは総務委員会です。それを無視するのは毎日でも開催できる特別委員会で超スピードの審議をするためです。総務委員会には、法案反対の自民党議員がいるという事情もあります。
十三日には、首相官邸の意向で総務省の郵政担当幹部を更迭しています。何が何でも民営化に突き進もうとする政府のやり方は異常です。
右往左往の民営化論
しかも、民営化法案は、一九九八年に成立した中央省庁等改革基本法が、郵政公社について「民営化等の見直しは行わない」と規定していることと根本から矛盾しています。
細田官房長官は、同法の規定は民営化の議論を妨げるものではない、という従来の説明を繰り返しています。今政府がやろうとしているのは議論ではなく民営化そのものです。こんな言い逃れは通用しません。
小泉内閣が主張する民営化の理由は、ことごとく破たんしています。
十五日のNHK討論で自民党の武部幹事長は、郵貯・簡保は民業を圧迫しているから民営化だとのべました。「民業圧迫」は、かねて銀行と保険業界、アメリカ政府が第一に掲げてきた主張です。
多くの国民が郵貯を選択しているのは、銀行が相次いで不祥事や金融犯罪を引き起こし、不信を広げてきたからです。銀行は採算優先で支店の統廃合を進め、都心の支店でも窓口に長蛇の列ができるなど、利用者の利便を犠牲にしています。
いちいち高い手数料を取られるのも納得がいきません。銀行によっては、百円の両替でも手数料は三百十五円。ATM(現金自動預払機)の時間外利用で百五円。通帳の再発行で二千百円。庶民の小口の口座の利息を大きく上回る手数料です。
国民が銀行に厳しい目を向けているのは銀行の身から出たさびです。
全国銀行協会は、小口の口座については「口座維持手数料をもらわないと経営が成り立たない」と言ってきました。そのためにも安易に手数料を取らない郵貯の存在がじゃまになっています。「民業圧迫」論は、金融業界の身勝手な議論です。
「民業圧迫」論が通用しないとなると政府は一転して「国営のままだとジリ貧になる」とも言い出しました。なぜ民営化かの一番基本のところで態度を百八十度変える議論です。民営化論に道理がないことを自ら証明しています。
JRは民営化成功例か
公明党の冬柴幹事長は十五日のNHK討論で、民営化の成功例として「多角経営がものすごい」とJRを持ち上げました。日本共産党の市田書記局長は「JRは本来業務で人を減らし、効率優先でああした(福知山線の)事故が起きた。あれだけの人が犠牲になっているのに、そういう例を持ち出すのは不謹慎だ」と批判しました。
国鉄はJRへと「民営化されて、従来よりサービスの質が向上した」。小泉首相も施政方針演説やメールマガジンで力説してきました。
今でもそんなことが言えるのでしょうか。JRにとってもっとも大切にしなければならないのは乗客の命であったはずです。郵政にとっては全国の住民生活に密着した郵便、貯金、保険サービス、それらを提供する郵便局網こそ宝です。
もっとも大切なものを失う前に何が大切かを考えたい。郵政民営化法案は撤回すべきです。