2005年5月23日(月)「しんぶん赤旗」
郵政民営化法案
審議前からボロボロ
提出そのものが国民を欺く
後半国会の焦点である郵政民営化法案。小泉内閣は、今国会での成立強行を狙い特別委員会を設置しました。ところが、審議の前から法案の大義はボロボロです。(金子豊弘)
二〇〇三年四月に発足した郵政公社。郵政公社化の方針を決めたのは一九九八年の中央省庁等基本法でした。
その中で郵政公社については「民営化等の見直しは行わない」と明記しています。
約束を破る
当時、担当大臣だった小里貞利総務庁長官は、これはこの(公社)形態でいきますよという精神をきちんと明記しておりますから、私はあの精神を大事にすべきである、それがまた政治としても信義だ」(九八年四月二十八日)と答弁しているのです。小泉首相は当時、厚生大臣でした。内閣の一員として、「民営化の見直しは行わない」と“約束”した責任があります。「政治としての信義」に反して、民営化法案を提出すること自体、国民との約束を破ることになります。
もう修正論議
民営化法案は、審議もしないうちから修正論議が活発です。修正を前提にするのなら最初から欠陥法案だと認めたことと同じです。
郵便局の全国一律サービスを維持するために「社会・地域貢献基金」を創設します。基金を積み立てなければいけないということ自体、民営化すれば、郵便局が成り立たなくなることを認めたことになります。
民営・分社化で新しく誕生する郵便貯金銀行と簡易保険会社の金融二社の株式は市場で完全処分し、国の所有から切り離します。ところが、処分した株式を日本郵政会社(政府が株式の三分の一超を保有)などが金融二社の株を買い戻すことを認める方針。国が金融二社の経営に関与でき、あたかも一体経営ができるような体裁をとるためです。そもそも一体経営を認めるなら、なぜ分社化する必要があるのでしょうか。
「民間にできないこと」切捨て
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郵政民営化法案で、郵政事業はいったいどうなるのでしょうか。小泉首相の口癖は「民間にできることは民間に」です。法案には冒頭に、「民間にゆだねることが可能なものはできる限りこれにゆだねる」と書き込みました。
顧客満足度は
しかし、国民生活に不可欠な基礎的な金融サービスを離島や過疎地まで全国津々浦々で提供しているのが郵政事業。いわば、「民間にできないサービス」を提供しているのです。週刊誌が行った企業の顧客満足度ランキングのアンケート調査(『週刊ダイヤモンド』〇五年三月五日号)では銀行部門のトップは郵便局でした。大手銀行よりも「利用に便利な場所にATMがある」「手数料の安さ」「店舗数の多さ」が評価されました。
実際、民間銀行がおこなっている金融サービスは手数料まみれです。時間外での現金自動預払機(ATM)の引き出しには手数料がかかります。しかも都心では長蛇の列を覚悟しなければなりません。両替も、百円玉を一円百枚に両替したら三百円以上とられます。通帳の再発行も千円から二千円徴収されます。郵便局では、これらはすべて無料です。
もし郵政が民営化され、もうけ本位の経営になったら郵便局でも手数料をとるようになるでしょう。それによって、「銀行がさらに手数料を引き上げやすくなる」(銀行エコノミスト)との指摘もあります。
民間銀行はこの間、合併・統合を繰り返し、まち中の店舗が減りました。十年間で二千六百もの店舗が姿を消しました(全国銀行ベース)。一方、郵便局は十年間で三百局増えています。
もし郵政が民営化されれば郵便局の統廃合は必至です。
郵政公社は三事業一体で経営をおこない赤字局を黒字局の収益で補っています。これによって、全国一律サービスが成り立っています。ところが、民営・分社化すれば、赤字の郵便局を維持することができなくなります。そのため法案では、「社会・地域貢献基金」を創設することにしています。
ところが、基金が想定している補てん額は、一局あたり六百万円、二千局にすぎません。実際の赤字局は、一万一千局以上、平均赤字額も一千万円を超えています。焼け石に水とはこのことです。
小泉首相のスローガンの本意は、「民間にできないことは切り捨てる」ということです。
リスク商品も
郵便貯金銀行は、元本保証のない投資信託や株式仲介などができます。「安全・安心」が売り物の郵便局がリスク商品を売りつけることになります。これは民間銀行ですでに実施しているもの。国民への金融サービス向上になるのでしょうか。
郵政公社の職員は、非公務員化されます。民営・分社化されることで、職員の大リストラは必至です。日本経団連が「(民営化は)公務員数の縮減に役立つ」としているところからも明らかです。
郵政公社の職員は公務員といっても、その給与は税金ではなく、郵政事業の収益でまかなっています。公務員数が減っても税金が節約されるわけではありません。
推進団体からも異論
郵政事業での利権温存をめざす自民党執行部と政府との調整によって、提出された法案が矛盾に満ちたものになりました。「廃止・解体」を狙う民営化推進勢力からは批判が噴出しています。
株式持ち合いを容認したことについて、経済同友会の北城恪太郎代表幹事は「暗黙の政府保証に対する懸念が残るとともに、民間とのイコールフッティング(競争条件の平等化)も不明確になり、改革の意義を大きく後退させかねない」としています。
全国銀行協会の前田晃伸会長(みずほフィナンシャルグループ社長)は「『暗黙の政府保証』が残る期間中に、経営の自由度が先行して拡大されることになれば、実質的な官業の一段の肥大化を招き、民営化の目的を実現するどころか、問題をいっそう深刻化させかねない」と指摘しているところです。