2005年7月3日(日)「しんぶん赤旗」
主張
サラリーマン大増税
ボーナスが吹っ飛ぶ悪夢
政府税調(首相の諮問機関)が打ち出した所得増税計画の総額は、定率減税の廃止、各種控除の縮小・廃止で、所得税・住民税を合わせて十二兆円に上ります。
年収五百万円の会社員・四人家族には四十二万円の増税です。ボーナスを夏・冬合計で三カ月分とした場合、税と社会保険料を天引きした手取りは月額二十八万円程度です。
手取り一・五カ月分、または夏か冬のボーナスが吹っ飛ぶ増税です。
■庶民に税負担を転嫁
日本の所得税の課税最低限(その収入以下の世帯には課税しない限度額)は、四人家族で三百二十五万円。主要五カ国で最低です。
アメリカの課税最低限は、「児童税額控除」の適用条件を加味すると四百六十二万円です(日本総研の試算)。アメリカでは年収が四百六十二万円まで非課税なのに、日本では非課税は三百二十五万円までに抑えられています。
今回の増税計画が実行されると、日本の課税最低限は一気に百十四万円、生活保護基準の半分まで下がります。アメリカの四分の一です。
さらに政府税調は、低所得層ほど負担が重く、価格に転嫁できる大企業には実質負担が発生しない消費税を二ケタに増税する方針です。
他方、これまで実施してきた大金持ち・大企業減税は継続します。
小泉・竹中税制「改革」の狙いは、高所得者・大企業から、庶民・中小企業に税負担をごっそり転嫁する税制の大転換にほかなりません。
こうした税制「改革」の姿から連想するのは、イギリス・サッチャー政権の税制「改革」です。
一九七九年から九〇年まで政権を担ったサッチャー首相は、所得税の最高税率を83%から60%、さらに40%へと半分以下に減らし、低所得層向けの軽減措置を廃止しました。
相続税の最高税率も法人税率も大幅に引き下げる一方、消費税の標準税率を8%から一気に15%へと二ケタ化。税負担を富裕層から低所得層に重く転嫁させました。
この結果、縮小傾向だった所得格差が急速に拡大します。失業・倒産が激増し、共同体の崩壊などで犯罪率は記録的に上昇しました。
サッチャーや米レーガン政権の新自由主義のシナリオ通りに悲劇を犯すと同時に、シナリオ通りには実行できずに悲劇が悲劇を呼ぶ。著名な経済学者が日本の「構造改革」をこんなふうに表現し、推理小説の古典(クイーン「Yの悲劇」)になぞらえています。
■サッチャー「人頭税」
すでに日本の所得格差は急拡大し、若者の中でサッチャー時代に匹敵する速さで不平等化が進んでいます。自殺率も失業・倒産も高水準で高止まりしています。こんな状況で庶民に巨額の税負担を転嫁すれば、「悲劇が悲劇を呼ぶ」悪夢のような事態を招くのではないでしょうか。
サッチャー政権は九〇年、成人の頭数に応じて課税する究極の庶民課税である「人頭税」を導入。国民は政党の枠を超えた大規模な反対運動で応え、サッチャーを退陣に追い込み、人頭税を廃止させました。
竹中大臣は人頭税を理想の税制だと公言してきました。生計費には課税しないという考えで設けている諸控除を縮小・廃止し、収入の多少に関係なく一律の税率をくらしと営業に課す消費税を大幅増税する。日本の税制をサッチャーの人頭税に限りなく近づける暴挙です。
イギリスで人頭税を廃止させたように、国民の共同で庶民大増税を中止に追い込もうではありませんか。