2005年7月6日(水)「しんぶん赤旗」
郵政法案
その時議場は
いやー危なかった
首相蒼白
「いやー、危なかった、危なかった」。郵政民営化法案の採決後、衆院本会議場を出てきた法案賛成派の自民党議員たちが口々に言いました。わずか五票差の可決。「こんなに(自民党内に)反対議員がいるとは思わなかった」と小泉純一郎首相も驚いた一時間半の本会議でした。
本会議開会は午後一時すぎ。各党代表の賛成・反対討論が続く中、議場では、亀井静香元政調会長、野呂田芳成元防衛庁長官、堀内光雄元通産相、保利耕輔元文相らが、反対票を示す投票札を机の上に置いてアピール。古賀誠元幹事長ら棄権、欠席、退席した議員も相次ぎました。その一人、渡辺具能議員は「郵便局は必要だといっているのに、つぶれる法案となっている。反対すれば野党と一緒になるので、苦渋の選択だ」。
法案の党内手続き、中身の問題点が一挙に噴き出た形となりました。
「よし、いけ」「がんばれ」。反対票を投じる自民党議員が出るたび、議場ではどよめきと野党からの拍手が何度もおきました。自民党席側に位置する傍聴席には参院自民党の民営化反対派が陣取りました。そのうちの一人、長谷川憲正議員は「われわれは欠席して反対するなんて、そんな甘いたたかいなんかしていない」と断言。次々身内から反対票が出てくる状況に、小泉首相から笑顔が消え、顔面蒼白(そうはく)になりました。
小泉首相と二人三脚で郵政民営化を進めている衆院郵政民営化特別委員会の山崎拓与党筆頭理事は、本会議終了後の記者会見で「反対した人たちもさまざまな理由があるのだろう。昨夜は寝れなかった」と疲れ切った様子で振り返りました。小泉政権に与えた傷の深さを象徴しています。
強引なやり方に反発が…
郵政民営化法案反対に回る自民党衆院議員数は約二十人で、欠席者や野党議員と合わせても法案を否決するには不十分――これが四日までの自民党執行部の予測でした。
■相次ぐ辞意
しかし事態は五日午前になって急変。滝実法務副大臣の辞表提出に続き、本会議開会数時間前に、衛藤晟一厚生労働副大臣、森岡正宏厚労政務官らが辞意を表明するなど、政権内で足並みが乱れました。加えて、堀内派の堀内光雄会長(元通産相)も会長辞任を表明し、同派幹部の古賀誠元幹事長とともに「造反」を表明。当初の予測より大量の反対者が出て、採否の行方はまったく分からなくなりました。
本会議後、反対派の切り崩しをおこなっていた小坂憲次国対筆頭副委員長は、「今日午前の段階で欠席から反対に回る議員が多くなってきて分からなくなってきた。心配した。ぎりぎりのところだった」と執行部としてもまったく見通しがつかなかったことを明らかにしました。
郵政民営化反対の議員でつくる自民党郵政事業懇話会(会長・綿貫民輔前衆院議長)は五日午前、党本部で拡大役員会を開き、結束して法案を否決することを確認。同会議に参加した衆院議員は三十五人、これ以上の三十七人が衆院で反対したことになります。
今回、これだけ大量の「造反」組が出た理由は、郵政法案そのものがもつ国民との矛盾とともに、法案をめぐり強引に党内了承を取りつけ、その後、反対派をどう喝で抑えこむ自民党執行部のやり方に多くの議員が反発したためです。
「やり方が強引で不当だ。選挙で公認しない、対抗者をたてる、など(執行部は)いろいろいっていた。これで反発が強まったと思う」。法案可決後、自見庄三郎元郵政相はこう述べました。
自民党議員として最初に反対票を投じた城内実議員は、きん差での可決について「今後も尾をひく」と指摘。「党内的手続きが十分でなかった。ルールにのっとって民主的プロセスで決めていただきたかった。日本の政党政治にとって大きな禍根を残す」と言いきります。
■基盤揺らぐ
衆院での「大量造反」は、自民党内での溝が広がるとともに、政権の基盤が揺らぎ、郵政民営化法案をめぐる参院での審議がいっそう難航することが予想されます。
採決後、議場傍聴席にいた反対派の荒井広幸参院議員は、「みなさんの無念さをはらすため参院でがんばる」と語りました。小泉批判の動きが急速に広がろうとしています。
日本共産党の志位和夫委員長は本会議後の記者会見で、「今度の国会で郵政民営化ありきという小泉内閣の態度に強い批判を持っていることが表れたものだ」として参院での徹底審議を通じて廃案をめざすことを表明しました。