2005年7月9日(土)「しんぶん赤旗」

原油高騰の背景

需要増に供給追いつかず

“イラクの誤算”や投機も


 英国スコットランド・グレンイーグルズでの主要国首脳会議(G8サミット)は七日の経済討議で、世界経済にとり「原油高は懸念材料」だと指摘しました。原油高が米国や中国の経済の減速を起こし、世界経済に悪影響を与えることが懸念されています。


 原油価格の世界指標の一つ、ニューヨーク商品取引所(NYMEX)のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油の八月当ぎりが七日、一時一バレル=六二・一〇ドルの史上最高値をつけました。ロンドンでの同時多発テロ発生後、五七ドルに急落し、また六〇ドル台に戻すという乱高下ぶりも示しました。

■効果みえず

 石油輸出国機構(OPEC)は六月十五日、日量五十万バレルの増産を決めましたが、価格抑制には効果がありません。その後も史上最高値を更新し続けています。

 現在の原油高には、構造的ともいえる需給の逼迫(ひっぱく)が作用しています。そのため、産油国で政情不安や災害が起きれば、供給が不足するのではないかという不安が常につきまとっています。特に、イラク戦争や中東情勢が濃い影を落としています。

 同時に、先高感を背景にした投機も、原油価格を押し上げる重要な要因になっています。

 国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の石油需要は昨年、日量約二百八十万バレル増加しました。今年も、約百八十万バレル増える見込みです。米国のほか、高成長を続ける中国やインドでの需要の伸びが顕著です。中国だけでも、日量約四十六万バレル増(前年比7・2%増)と予測されています。

■処理能力は

 供給側では、非OPEC産油国の増産速度が落ちてきており、イラクを除くOPEC諸国の増産余力も日量百万バレルほどしか残っていず、それもサウジアラビア一国に集中しています。OPECの増産決定は、供給不安の解消には役立たず、かえって増産余力がなくなってきていることを目立たせました。

 そして、「最大の誤算はイラクだ」(石油連盟広報)といいます。イラクは、戦後復興の後には日量四百万バレルの生産も見込めるとされますが、現実には政情安定のめどが立っていず、日量二百五十万バレルの現有生産能力に対し百七十五万バレル(今年五月)しか生産されていません。

 一九九〇年代には、湾岸戦争の時期を除き、原油安が長く続いたため、生産への新規投資が手控えられました。現在、新規に投資したとしても、即座に供給が増えることは期待できません。

 原油処理能力にも問題があります。世界最大の消費国である米国の能力は過去二十五年間に、日量千八百六十二万バレルから千六百六十万バレルに減少。製油所の数も一九八一年の三百二十四カ所から百四十九カ所に減り、しかもフル稼働状態です。わずかなトラブルでもガソリンなど石油製品の不足が起き、価格が高騰します。それがまた原油価格に跳ね返ります。

■複合的要因

 こうした中で、世界の株価や為替に大きな変動がなく、利益をあげにくくなった投機資金が商品市場に向かっているといわれます。米商品先物取引委員会(CFTC)が六月二十四日発表した週間報告によると、ニューヨーク原油先物市場で投機筋の買い越しが千九百八十四万七千バレルに上り、投機資金の流入が裏づけられました。

 IEAのマンディル事務局長は六月二十九日、声明を発表し、現在の原油高には「複合的な要因が働いている」として、「どれか一つの要因を非難するのは有益でない」と述べました。

 世界の原油の確認埋蔵量は、中東を中心とするOPEC諸国が69・3%を占めており、世界が将来、中東石油への依存度を高める可能性は否めません。短期的にはもちろん、長期的にも、中東の平和回復と安定が望まれます。

 (北川俊文)

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