2005年7月15日(金)「しんぶん赤旗」
アルゼンチン
国営に戻し復活
民営化で減った郵便網守る
“すべての国民がサービス受けられる”
アルゼンチンの郵便事業分野に乱立する約三百の民間企業。新自由主義政策が吹き荒れた一九九〇年代に認可されました。九七年、国営だったアルゼンチン郵便も民営化。ところが手紙を出すのに車で往復十時間かかるようになった村が出るなど失敗し、二〇〇三年十一月、左派のキルチネル政権のもと、国民の要求で再び国営化されました。日本の郵便事情にも明るい通信省上級・専門職員連盟のヘレス前書記長は「日本はアルゼンチンの経験を繰り返してはならない」と警告します。(ブエノスアイレス=松島良尚)
再国営化されたアルゼンチン郵便のディコーラ総裁は、「民営化のやり方がまずかったし、サービスという点でも否定的な結果だった」といいます。同総裁は再国営化後、旧経営陣に代わって指揮をとっています。
■3分の1も減る
公共サービスをにない、収益も上げているのだから民営に戻す必要はない―圧倒的な国民が国営存続を望んでいます。
民営化によって約六千あった郵便局は四千に減りました。国土は日本の七・五倍。影響は甚大です。存続した郵便局でも、年金が受け取れなくなるなど業務を縮小したところが少なくありません。民営化後、八千人の労働者が退職に追い込まれました。
民営化後の郵便料金はどうか。政府との唯一の取り決めは、二十グラム以下の郵便物については七十五センターボ(現在三十円強)を維持するというものでした。これは守られてきたものの、それ以外の規定の郵便物については大幅値上げ。平均で四倍になったといわれます。
再び国営化されたのは、半年ごとに約五千万ドル(現レートで約五十五億円)を政府に支払うという民営化の際の約束が守られなかったからでした。歴代政権は契約不履行を見てみぬふりをしてきました。その背景にある汚職構造が指摘されており、他の分野の民営化企業についても同様の問題が指摘されています。
キルチネル政権は一連の民営化企業との契約の履行状況を精査。郵便事業については契約を更新せず、国営化に踏み切ったのです。その後、約百の郵便局が復活しました。
■国の役割が重要
将来はどうなるのか。ディコーラ総裁はいいます。
「政府の決めることであり、法的には現在、新たな入札を実施しうる状況にあります。しかし、考え方はこれまでとまったく異なります。国が直接、郵便サービスを提供し続けるにせよ、政府の規制とコントロールを強めて民間企業にやらせるにせよ、国の役割がきわめて重要だという点です。どこに住んでいようと、すべての国民が支障なく郵便サービスを利用できるようにしなければなりません」
地元紙「パヒナ12」が昨年実施した世論調査では、八割以上が国営存続を希望すると回答しました。ディコーラ総裁は、郵便労働者も国営支持だったと明言します。
通信省上級・専門職員連盟は国営存続を願う五万人の請願署名を政府に提出しました。アルフォンシン元大統領の署名も入っています。ヘレス前書記長は、「国営による単一の事業体によってこそ、すべての国民が郵便サービスを享受でき、安定した収益も確保できるのです」と強調します。
■インカ時代から
郵便にまつわる同氏の話はインカ帝国時代にまでさかのぼります。スペインが南米大陸を侵略する以前の十五世紀、エクアドルからアルゼンチンへの郵便網がすでにありました。文字文化を持たなかったインカ帝国はキープと呼ばれる結び縄で意思を伝達し、その縄がアンデス山脈を行き来していたのです。
ブエノスアイレスに最初の郵便局が設立されたのは一七四八年でした。
「郵便は馬に乗って届けられ、二十キロごとに設けられた中継所で馬を代えていたのです。この中継所の周囲に人が住むようになり、村、町に発展していきました。昔もいまも、郵便網は社会発展の土台です」