2005年7月15日(金)「しんぶん赤旗」
マスメディア時評
郵政民営化の本質突かない議論
郵政民営化法案の、参院での審議が始まりました。マスメディアの関心は、何人の自民党議員が「造反」するのか、参院で否決された場合小泉首相は衆院の解散に踏み切るのかに集中した感がありますが、肝心の、なぜ郵政の民営化が必要かという点では、あいかわらず議論らしい議論がありません。
■国民に何をもたらすのか
民営化の本質を回避したそうしたマスメディアの議論を象徴したのが、十三、十四両日の全国紙の社説です。
日ごろ憲法問題などでは違いを見せる「朝日」(十三日付)が「これ以上、骨抜きにすることなく成立させるべきだ」といい、「読売」(十四日付)が「参院で、これ以上の後退があってはなるまい」と筆をそろえます。しかもその理由は、「朝日」が「(民営化の)流れを逆戻りさせてはならない」、「読売」が「(民営化は)時代が要請する課題」と、そろいもそろって、郵政民営化を手放しで賛美する立場からです。「日経」(十四日付)も「まず民営化の道筋を」と主張します。
これらのマスメディアが実施した世論調査でも、国民の中では郵政民営化への賛否が渦巻き、今国会で成立を急ぐべきではないという世論が大勢を占めます。マスメディアはなぜ、郵政民営化の是非を問わず、民営化を当然の前提とした議論を出ようとしないのでしょうか。
すでに衆院段階の審議でも、郵政民営化が全国一律のサービスを後退させ、郵政事業の経営悪化を招くことが明らかになりました。郵政民営化が結局、三百四十兆円に上る国民の財産を日米の金融資本の食い物にするためだけのものではないかとの懸念が、急速に強まっています。
マスメディアに求められるのは、国民の立場に立って、こうした民営化の本質に迫ることです。そうした議論を抜きに、民営化を歴史の「流れ」時代の「要請」とすましているようでは、言論機関としての責任を果たしたことにはなりません。
■判断材料なく「信問う」とは
この問題で「毎日」(十四日付)は、「首相と反対派が妥協して、お茶を濁すくらいなら、廃案にして出直す方がまだまし」とまで主張します。廃案後内閣が総辞職し、選挙管理内閣をつくり国民の信を問うか、あるいはいま直ちに衆院を解散して、信を問うというのがその筋書きです。
もともと「毎日」の立場は、政府案でも「民営化とは名ばかりだった」というもので、郵政民営化推進の立場に立つ点では、他のメディアと変わりがありません。
民営化の是非を問わないで、「妥協」がよいか解散・総選挙かなどと言い募るのは無責任のきわみです。国民に十分な判断材料を示さず「国民の信を問う」といっても、国民の意思が正しく反映される保証はなく、結局は衆院解散を脅しに使って法案への賛成を迫る、小泉首相の態度とどれほど違うというのでしょうか。
いまマスメディアに求められるのは、民営化の是非を含めて、郵政民営化の問題点を徹底的に明らかにし、参院でも徹底審議を要求していくことです。
財界が求めているためかどうかはともかく、民営化を前に思考停止して、郵政民営化の本質を突かない論議に閉じこもっている限り、小泉内閣の援軍役を果たすことはあっても、国民の期待に応えることはできません。(宮坂一男)