2005年7月16日(土)「しんぶん赤旗」
主張
教科書採択
いま、立場を超えて訴えたい
市町村で初めて、栃木県の大田原市教育委員会が「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書を採択しました。子どものことを考えると痛恨の出来事であり、再検討されるべきです。
採択の背景には自民党と右翼団体の圧力と周到な準備があることがわかっています。とくに自民党は党大会で「歴史教科書の適正化」をかかげ、各地で採択をせまる集会を開くなど介入をつよめています。
■異様な侵略戦争正当化
教育関係者がこうした圧力に流されていいのでしょうか。あらゆる立場の人々に、二つの事実を見つめることを訴えたいと思います。
第一は、「つくる会」の設立の目的です。「会」の趣意書は次のように述べています。
「自虐的傾向がさらに強まり、現行の歴史教科書は旧敵国のプロパガンダをそのまま事実として記述するまでになっている」。だから「新しい歴史教科書をつくり、歴史教育を根本的に立て直すことを決意した」。
日本のおこした戦争を過ちとして反省することは、アメリカなど旧敵国のプロパガンダ=宣伝文句にすぎない。その戦争への反省を教育界から一掃するというのが、「会」の目的です。いま世界で問題になっている靖国神社と同じ戦争観です。
第二は、「つくる会」教科書で戦争がどう描かれているかです。
たとえば太平洋戦争の目的は次のように書かれています。
「日本は米英に宣戦布告し、この戦争は『自存自衛』のための戦争であると宣言した」「日本の緒戦の勝利は、東南アジアやインドの人々に独立への夢と勇気を育んだ」
現行の「つくる会」教科書に対応した教師用指導書によれば、実際の授業は次のようになります。
教師は「大東亜戦争の目的は何ですか。ノートに書きなさい」と生徒に指導し、「自存自衛とアジアを欧米の支配から解放し、大東亜共栄圏を建設すること」というように書けているかどうかを確認する。
他のすべての教科書は「東南アジアへの侵略だった」「アジア解放と言うのはまやかしだった」と書いています。比べて読むと、靖国神社と同じ、「日本のやった戦争は正しかった」という戦争観を子どもに教えこもうという「つくる会」教科書の異様さがうきぼりになります。
日本国憲法も国際連合も、武力で他国を侵略した日本やドイツの戦争は不正義の戦争であり、二度と繰り返してはならないという認識のうえに成立しています。戦争認識は、日本国民が世界のなかで歩んでいくための根本にかかわる問題です。
日本はかつてアジアを侵略し、多くの人を殺し、食料・資源を奪った国です。アジアの若者は、自分たちの国がその時代にどんな目にあったのかを、知っています。その人たちに、日本の若者が「あの戦争は自存自衛とアジア解放のためだった」と言えばどうなるでしょうか。
■世界の人々と生きる
子どもたちは将来、アジアと世界の人々と肩をならべて生き、働く世代です。日本の子どもを世界中の人々から相手にされない人間に育ててはなりません。
戦後六十年。作家の井上ひさしさんは「謝罪するのは、自分のなかに正義を取り戻すためです。それができるかどうか、その国の器量が問われる」と述べています(「しんぶん赤旗」日曜版七月十日号)。
この夏、子どもたちに正義をつたえる選択が待たれます。