2005年7月18日(月)「しんぶん赤旗」

稲食う巨大外来タニシ

農家の悲鳴

千葉


表

 イネが食い荒らされ沼地のようになった水田、毒々しいピンク色の卵…。「ジャンボタニシ」のしわざです。被害に頭を悩ませる千葉県内の稲作農家の現状を追いました。(千葉県・浅野宝子)

 「なにしろすごいピンク色の卵で食欲旺盛。異常に繁殖します。被害は十数年、年々ひどくなる」。被害が多かった光町で農業を営む竹内壮文(たけのり)さん(46)はいいます。水田では、いくつものジャンボタニシがゆうゆうとはい回り、イネの茎をよじ登る姿が見られます。

 県内では八六年に初めて確認され、現在、外房地域を中心に約二十市町村で発生。全国でも県内でも、水田の被害面積は増加の一途です(表)。

 大きいものでは湯飲み大にもなり、田植え後二―三週間の柔らかい苗を食い荒らします。外来種の常で天敵はなし。サギ類は減少したうえジャンボタニシを好まず、ゲンゴロウなどはめっきり姿を見せなくなりました。

 「段ボール片を入れたらびっしり付いてきた」「ツバキ油をまくと効く。しかし、時期が遅いとイネににおいが付くのではと心配」。農家は口コミで試行錯誤の日々です。

 確かに、「いもち病」などと並ぶイネの病害虫問題の一つであり、被害期間が短いことも事実です。今年六月に施行された、特定外来種生物被害防止法(三十七種)にも含まれていません。

 県農林水産部生産振興課は、「今年の被害はそれほどではない」と判断。各市町村も、予算的援助や被害への補償体制を整えるにはいたっていません。

 しかし、「イネが食われる被害は今年初めて」(大網白里町の農家)という声もあります。竹内さんは、「一見、被害の見えない水田でもイネの分けつ(根本から茎が分かれ出ること)に影響し、株の数が少なくなっている」と指摘します。

 県病害虫防除所は、田植え後しばらく浅水で管理する、卵を水中に落とす、成貝を捕殺する、などの方法を指導しています。卵自体は水に弱く、成貝は水が少ないと不活発となるためです。

 一、二月の厳寒期に田を耕し、越冬中の貝を寒風にさらすのも効果的といいます。しかし、「いずれにしても人手が頼り。兼業による『日曜農家』も多く、後継者不足もある。高齢化した農家では、春にやっと代かきをしているのが現状です。天敵がいないこともありますが、ここが切実な問題です」。八日市場市の東総農民センターの今井睦子さんは、異常繁殖の背景を指摘します。

 ジャンボタニシの性質を利用し、除草に成功している例も少なくありません。しかし、「すでに繁殖してしまっている地域以外ではやめるべきだ。外来種の安易な導入による生態系の破壊は、取り返しがつかない」とする研究者もいます。

 県中央博物館動物学研究科の黒住耐二上席研究員は、「ジャンボタニシは東南アジアをはじめ世界的な問題です。日本が何もしないのでは解決できない。対策が後手後手になっては、外来種問題はステップアップはできません。行政サイドが現場をこまめに見て、本気になって考えるときです」と警鐘をならします。

 「発生から約二十年、個々の対処では限界。地域ぐるみの集中的な防除が必要」(竹内さん)「対策がすすまないのは、減反続きの農政のもとで米作農家がそまつにされているからでは」(農民運動千葉県連合会)。農家は真剣な対応を求めています。

 ▼ジャンボタニシ 南米原産の淡水巻貝で和名はスクミリンゴガイ。植物や水路壁に濃いピンク色のキイチゴ状の卵塊を産みつけます。最大殻高は約八センチ。アジアの貧困な地域のタンパク源として養殖され、日本には一九八一年台湾などから導入されました。八五年ごろ養殖は衰退、野生化した貝による稲やレンコンへの被害が顕在化、毎年九州から茨城以西の水田で被害が深刻化しています。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp