2005年8月30日(火)「しんぶん赤旗」
動かぬ証拠
郵政民営化は日米金融業界の要求
小泉・自公政権は、郵政民営化が「構造改革」の突破口だといいます。しかし、それは「改革」どころか、国民にとって「百害あって一利なし」。国民の願いではなく、日本とアメリカの大銀行・保険業界が強く要求してきたものです。日米双方の政府首脳、当事者の発言や文書に数々の証拠があります。
■長年の悲願
日本の銀行や保険業界は、長年にわたって郵便貯金、簡易保険の縮小・廃止を求めてきました。
「本来は国営の郵便貯金事業を廃止することが望ましい」との提言(二〇〇四年二月)を出したのは全国銀行協会。同協会が民営化を長年の悲願としてきたことは、そのトップが会見で毎年のように民営化の実現を主張してきたことでもうかがえます。
今年二月、全国銀行協会や生命保険協会が全国紙に掲載した意見広告はこう書きました。「郵政民営化にあたり、私たちは『公正な競争』が行われることを望みます」。
郵貯・簡保と民間の金融機関の間には、「平等な競争条件」がない、これが自分たちの障害になっている、だから民営化して障害をなくして商売をしやすくしてほしいというのが業界の言い分です。
同協会や損害保険協会は政府の郵政民営化準備室にも職員を送り込み、民営化法案づくりにも直接関与してきました。
■財界後押し
業界の動きを強力に後押ししてきたのが財界です。
経済同友会は、昨年九月、政府の「郵政民営化の基本方針」に「民間との公正な競争」などを求める「意見」を提示。日本経団連は「郵政民営化の着実な実現を望む」(〇四年十二月の意見書)と政府に求めました。
昨年十一月に開催された日米財界人会議は「郵貯・簡保が、日本国民一般にユニバーサル(全国一律)サービスを提供し続ける必要はなく、本来的には廃止されるべきである」とする共同声明を発表。
■日米「合作」
米国側も執拗(しつよう)に郵政民営化を要求してきました。
ブッシュ大統領 「郵政民営化の進展ぶりはどうか」
小泉首相 「大きな反対はあるが、しっかりやっていきたい」
大統領 「首相の強いリーダーシップに敬意を表したい」
昨年九月二十一日にニューヨークで行われた日米首脳会談でのやりとりです。日米蔵相・財務相会談でもスノー米財務長官は、米保険業界が郵政民営化に関心を抱いているとのべました。
小泉首相は直前に「郵政民営化の基本方針」を閣議決定。“手みやげ”を持って臨んだ訪米でした。
この時できあがっていた政府の「郵政民営化の基本方針」には、民間との同一の競争条件など、日米の金融保険業界の要求はおおむね盛り込まれていました。
その証拠が米通商代表部(USTR)が今年三月に出した報告書です。
同報告書は、日米交渉を通じて米国が勧告し、その後、日本政府が修正したうえで郵政民営化の基本方針を発表したことを記述しています。
そのため、郵政民営化準備室は昨年四月以降、米国政府や民間の関係者と十八回も意見交換を重ねていました(うち五回は米国の保険関係者との会合)。
郵政民営化は、設計図の段階から日米双方の業界の要求に忠実にこたえた合作でした。
■全銀協会長は毎年要求
全国銀行協会の会長は毎年、記者会見で郵政民営化を求める発言をおこなっています。(肩書は出身銀行=当時)
1999年4月20日■
杉田力之第一勧銀頭取 「郵貯の公社化は民営化への一里塚」との考えのもとで、全銀協としては引き続き主張・提言を続けていく
2000年6月20日■
西川善文住友銀行頭取 国営形態を維持したまま、郵貯が肥大化を続けるということに対する懸念は、各行とも共有している。早期に民営化を実現するということがどうしても必要
2001年4月24日■
山本恵朗富士銀行頭取 小泉新総裁は、ずいぶん若いころから郵政事業、特に郵貯問題についていろいろな提言をされ、郵貯の民営化についてかねてから主張をされている。これは、従来からの全銀協の主張と方向を一にするものである。民営化を目指すべきとの従来からの全銀協の考え方を引き続き新総裁にも主張していきたい
2002年4月23日■
寺西正司UFJ銀行頭取 郵貯や政府系金融機関などの公的金融の巨大なプレゼンスが、わが国の金融資本市場の活性化・効率化の阻害要因となっている。改革が必要
2003年11月18日■
三木繁光東京三菱銀行頭取 全銀協は、郵貯は廃止、または民間金融機関との公正な競争の条件を整えた上での民営化を主張してきた。私個人としては、郵貯は縮小、廃止の方向ではないかと思う
2004年4月20日■
西川善文三井住友銀行頭取 郵政事業の見直しが、単に民営化するといった形式的な組織論に陥らず、本当の意味で、金融システムの安定化、国民経済へのプラス効果が発揮されるような形で実現するよう、提言活動を実施
2005年4月19日■
前田晃伸みずほフィナンシャルグループ社長 郵貯事業の本質的な問題点は、その規模が極めて大きいことに加えて、その資金が市場原理の埒外(らちがい)に置かれていることで、わが国金融市場の公正な価格形成をゆがめ、経済活力を高める効率的な資金配分を阻害している。こうした問題点を解決することが、民営化の本来の目的。現在、郵貯がおこなっている業務については、かなりの部分を民間金融機関で代替することが可能である