2005年9月6日(火)「しんぶん赤旗」
郵政民営化 “官から民へ”というが
「民」には米の保険会社も
“進出のじゃま 簡保なくせ”
■設計図づくり
郵政民営化を強引に進めようとする小泉首相。一つ覚えのスローガンは「官から民へ」です。この「民」の中には日本の民間大企業だけでなく、米国の民間大企業である生命保険会社の「民」まで含まれていました。
昨年三月のことです。米国の生命保険協会のキーティング会長は記者会見で、「簡保は、民間企業から仕事を奪っている」と発言。「米国保険会社を含め民間生保はこの民営化の過程で被害を被ることなく、始まったばかりの民営化に関する議論に意義ある参加を認められるべきである」と要求をつき付けました。
昨年八月に東京で開かれた日米保険協定に基づく二国間協議。この席には全米の保険の機関が参加しました。この協議は、小泉自・公内閣の郵政民営化の設計図である「郵政民営化の基本方針」を決定(九月十日)する直前に開かれています。
この席で米国側は、「簡保と民間事業者の間に存在する不平等な競争条件」をなくせと求めました。簡保利用者の「安全・安心」のよりどころになっている政府保証をはじめ、米国の生命保険会社より有利なものはすべて取り払えという要求です。それができるまでは、「簡保が新商品提示を停止するよう」日本政府に求めました。
■修正勝ち誇る
米国の露骨な圧力は小泉自・公内閣には効果を上げます。政府が決めた「郵政民営化の基本方針」の「基本的視点」の二つ目の柱に、民間とのイコールフッティング(競争条件の平等化)の確保が掲げられました。そこでは、「民間企業と競争条件を対等にする」「民間企業と同様の納税義務を負う」「新契約については政府保証を廃止」することなどが盛り込まれました。
米通商代表部の年次報告(二〇〇五年三月に発表)は「内閣の設計図には米国が勧告していた次のような修正点が含まれた」と勝ち誇りました。
そこには、(1)日本郵政公社に民間事業者として同じ納税義務を負わせること(2)日本郵政公社の保険商品に関する政府保証を打ち切ること―などが列挙されました。
米国政府が日本に“修正”させたという項目は、いずれも郵政民営化法案づくりの根幹にかかわるものばかりでした。
■進行を点検
米国側は設計図が示されただけでは満足しませんでした。
昨年九月二十一日のニューヨークでの日米首脳会談でブッシュ大統領の方から「郵政民営化の進展ぶりはどうか」と、この話題を持ち出したのです。「会談の最後に郵政民営化の話題を突然、持ち出して日本側出席者らを驚かせた」(「日経」〇四年九月二十二日付夕刊)といいます。
念押しされた小泉首相は「大きな反対はあるがしっかりやっていきたい」と決意を表明。これにたいしブッシュ大統領は、「総理の強いリーダーシップに敬意を表したい」とたたえました。
小泉首相が示す異様なまでの郵政民営化への執念。その発生源はここにあります。
■さらに露骨に
昨年十一月に都内のホテルで開かれた日米財界人会議では、さらに露骨な要求が出されました。「郵貯・簡保が日本国民一般にユニバーサル(全国一律)サービスを提供し続ける必要はなく、本来的には廃止されるべきである」(共同声明)。この会議には、米国の生命保険会社の代表も出席していました。“自分たちのもうけの邪魔になるものはなくなってしまえ”というこの立場には、利用者への考慮などみじんもありません。
さらに日米財界人会議の共同声明は、郵政事業を四つの独立した法人(窓口ネットワーク、郵便、郵便貯金、郵便保険)に分離・分社化することや、四つの郵政事業の間の相互補助を禁止するための「効果的な方策」を求めました。このころ、自民党の三事業(郵便・郵貯・簡保)一体案と政府の四分社化案の対立が政府与党内で続いていました。日米財界人会議の共同声明は、この動揺にくさびを打つ意味を持ちました。
■法案づくり
米国側は、郵政民営化の法案づくりの作業に参加することまで求め、米生保業界の要望を実現させようとします。「民間の利害関係者が、関係する日本政府の職員と民営化について意見交換を行い、政府が招集する関連の委員会の審議に貢献する有意義な機会が提供されるよう」(米通商代表部の「対日要望書」〇四年十月十四日)と要望。これを受け、外資代表も入れた説明会が〇四年十一月、〇五年二月および三月と三回開かれました。
郵政民営化準備室は、米国の政府、民間の関係者と十八回にわたって会合を開き、うち五回は米国の保険関係者だったことも国会審議のなかで明らかになっています。
日本の法律づくりまで米国の生保会社関係者が直接関与する異常ぶりでした。
■郵政民営化への米国の圧力
2004年
8月20日 日米保険協定にもとづく2国間協議
9月10日 小泉自・公内閣が「郵政民営化の基本方針」を決定
9月21日 日米首脳会談
10月14日 米通商代表部の日本政府への「対日要望書」
11月14、15日 日米財界人会議開催(共同声明発表)
2005年
3月1日 米通商代表部が政策年次報告書を発表
4月27日 郵政民営化法案、国会に提出
8月8日 郵政民営化法案、参議院で否決
■米宅配便業界の要望受け分社化
米国側は、郵政民営化は「宅配便業者にも影響を与える」として、執拗(しつよう)に郵便業務を郵政公社から切り離すことを求めています。米通商代表部の「対日要望書」(二〇〇四年十月十四日)では、「民間部門と競合するビジネス分野における競争を歪曲(わいきょく)するような政府の特別な恩恵を日本郵政公社の郵便事業が受けることを禁止する」と提起していました。
そのうえで、「競争的なサービス(宅配便サービス)が、日本郵政公社が全国共通の郵便事業で得た利益から相互補助を受けるのを防止する」ことを求めています。分社化は、米国の宅配便業界の要望にそったものであることがわかります。
政府の郵政民営化準備室は、米国の物流関係者とも二回の意見交換を重ねていました。
■保険外資
アリコなどニュース番組などでよく見かける生命保険会社のCM。米国系会社のものが目立ちます。外資系会社の日本業界への進出は、七〇年代から始まっています。今では生命保険協会加盟の三十九社のうち十六社が外資系会社で占められ、そのうち米国資本は八社にのぼります。
▼日米保険協議 日米両国の保険行政に関する協議。1994年の日米保険合意に基づき開催しています。