2005年9月15日(木)「しんぶん赤旗」
社会リポート
年金担保融資被害全国で10万人以上
通帳・印鑑預かり引き出す
弱者狙いうち 法改正でやっと摘発
高齢者や障害者など社会的弱者を狙って年金などを担保に取る違法融資の被害が全国的に広がっています。生活の糧を取り上げられ、食事の回数を減らしたり、ホームレスになるなど、悲惨なケースも。年金担保被害対策全国ネットワークの関井正博事務局長(司法書士)は「西日本を中心に、少なくとも十万人以上の潜在的被害者がいる」とみています。なぜ違法な融資がはびこるのか。実態をみてみました。(橋本伸)
今月八日朝、熊本県警は貸金業規制法違反容疑で、違法な年金担保融資を繰り返していた熊本市の貸金業者「かがわパーソナル」(香川尚三社長)を家宅捜索、関係書類を押収しました。
同社はさる八月二十四日、「熊本クレジット・サラ金・日掛被害をなくす会」などから、同法違反容疑で告発されていました。告発を受け、熊本県警が捜査に乗り出したものです。
■罰則なかった
告発状によると、同社は熊本市の男性(80)と、知的障害のある長男、二女、三女の四人分の年金・障害基礎年金の振込口座の通帳や印鑑を預かり、年金が振り込まれるたびに引き出し、一部のみを男性らに渡していました。出資法の上限金利29・2%を超える利息をとっていたとみられます。
貸し付けのさい、貸金業者が年金証書や通帳、印鑑、キャッシュカードなどを預かる年金担保融資は、厚生年金保険法や国民年金法などで禁止されていますが、罰則がありませんでした。
このため、警察も行政も年金担保融資をほったらかしにしてきたのが実情です。
その結果、ただでさえ所得が少ない年金生活者が苦しめられてきました。年金担保被害対策全国ネットワークが収集した被害には、次のような例が並んでいます。
――遺族年金を受けとっていましたが、まとまったお金が必要になり、年金を担保に八十万円借りました。その後、昨年まで業者に約千七百万円の年金を奪われてきました。業者からは、生活費として月に五万円程度の金を渡されていましたが、これも貸付金として数えられていました。生活が苦しくて……睡眠薬を買い込み、ジュースで飲みました。たまたま発見され、一命を取り留めました。
昨年十二月、国民年金法などの“弱点”を補うため、貸金業規制法が改正され、一年以下の懲役もしくは三百万円以下の罰金という罰則が設けられました。
■違法知られず
さきの関井さんはいいます。
「ヤミ金のようなひどい取り立てをしなくても金が入る。こんなおいしい商売はない。だから被害防止のためにも、悪質な年金担保融資業者は、告訴告発することが必要です。その結果、これまでに警視庁や兵庫県警が三件摘発している」
年金担保融資が違法だと知らない被害者が多いのが実情です。公的な年金担保融資制度を行っている独立行政法人「福祉医療機構」(東京・港区虎ノ門)では、今年一月、『違法年金担保融資被害事例集』を発行、違法な年金融資被害の防止に役立ててほしいと呼びかけています。
▼公的年金融資制度 年金生活者が急な出費で年金を担保に高利の借り入れをし、生活が困窮する例が増えたため、できた制度。年利0・6%から1・4%という低金利で、年金の年額の範囲内なら、最低十万円から最高二百五十万円まで借りられます。