2005年9月16日(金)「しんぶん赤旗」
川辺川ダム
国が強制収用撤回
漁民ら「ダムによらず治水を」
計画発表から約四十年が経過した川辺川ダム建設計画(熊本県相良村)について国土交通省は十五日、熊本県収用委員会の勧告に従い、漁業権や土地など三十三件の強制収用裁決申請を取り下げました。
同省が収用申請取り下げに追い込まれたのは、ダム建設の目的の一つである利水計画の策定作業が難航しているため。農水省の石原葵事務次官は同日、関係者間の調整に時間がかかるとの見通しを改めて示しました。
同ダム計画で、国交省は漁業権の損失補償をめぐる地元漁協との任意交渉が決裂したのを受け、二○○一年十二月に強制収用を申請。○三年五月の福岡高裁判決で、利水計画が事実上無効とされて以降、農水省と地元自治体が中心となって新たな利水計画の策定を進めましたが作業は難航し、収用委が今年八月、国交省に申請取り下げを勧告していました。
これを受けて国交省が農水省に新利水計画を提示するよう求めたのに対し、同省は十三日、「現時点で計画の概要を示すことは困難」と回答、時間切れとなりました。国交省は同日、新利水計画の早期策定を農水省に促し、申請の再提出を目指す方針を明らかにしました。
■「清流を守る」漁民らが声明
国土交通省が川辺川ダム建設にともなう強制収用申請を十五日取り下げるとの談話を発表したことに対し、ダム建設に反対している漁民らは、熊本県庁で記者会見し、「決断を高く評価し、歓迎する」との声明を発表しました。
声明では、「今後、地域住民の意向に従った利水、治水計画が策定されることを強く望む」とするとともに「今回の収用申請取り下げに当たって、ダム利水、ダム治水を前提とするような条件設定があってはならない」としています。
ダム反対漁民の毛利正二さんは「清流を守りたいとの思いは当然。収用委員会に感謝している。住民の生命財産を守るのではなく、ゼネコンを守るためにダムをつくる考え方はもう通用しない。新たな視点でダムによらない治水を考えるべきで、川の掘削や拡幅、堤防強化などやるべきことはたくさんある」と話しました。
漁民側の代理人板井優弁護士は「ダムと利水を結びつけるやり方が間違っている。新利水計画でもダムによらない案の方が三、四年早い。ダム案は今後どうなるかまったくわからなくなった。水に色はついていない。ダムでなければならない理由は農家にはない。長引くと農民がどうなるか冷静に考え、ダムの呪縛(じゅばく)から離れ、どうしたら早く解決するかの観点に立つべき」だと語りました。