2005年9月21日(水)「しんぶん赤旗」
小泉郵政民営化法案 「数の力」を頼むがこれだけの問題点
総選挙で自民、公明の与党で三分の二の議席を占めたことから、小泉首相は「(郵政民営化で)国民が答えを出した」としています。小泉与党は二十一日からはじまる特別国会で、郵政民営化法案を再提出し、「数の力」で成立させようとしています。改めて問題点をみてみます。
■世論 「慎重に議論」が53%
■総選挙の得票では賛否半々
与党が「圧勝」したのは第一党に極端に有利な小選挙区制(一選挙区の定数が一人)の弊害によるものです。
得票率でみると、自民、公明は比例代表で51・5%、小選挙区で49・1%。郵政民営化の賛否は半々に分かれています。
しかも、郵政事業には一円の税金も使われておらず、民営化しても税金の節約にならないことなどの真実を、小泉首相は選挙中に語ろうとせず、うそとごまかしに終始しました。
共同通信の世論調査(九月十二、十三日実施)でも郵政民営化法案の取り扱いについて「慎重に議論すべきだ」が53・4%と過半数で「特別国会で成立させるべきだ」の37・1%を上回っています。
特別国会では徹底した審議こそ求められています。
■真実 首相は語らなかった
小泉首相は先の総選挙で、郵政民営化について真実を語ろうとしませんでした。
■税金は使われていない
小泉首相は、郵政民営化が税金の節約になるかのようにいいます。しかし郵政事業には国民の税金はいっさい使われていません。
郵政公社の職員約二十六万人の給料なども郵政事業からの収益でまかなわれています。
民営化され、国家公務員だった郵政職員が民間の会社員になっても、税金の節約にも「小さな政府」にもつながりません。
独立採算制は、法律で決められていることで、郵政公社になる前の郵政省の時代から一貫しています。郵政相も経験した小泉首相が、百も承知の事実を隠して国民をごまかし続けることは許されません。
■もうけの半分は国庫に
自民、公明両党は民営化すれば、法人税や固定資産税などを払うようになるので国の財政に貢献するかのように主張しています。
しかし郵政公社は、利益の50%を国庫に納付することになっています。これは国と地方分を合わせた法人税率(約40%)より高くなります。
固定資産税相当額の二分の一を、所在する市町村に納付することも法律で義務付けられています。社宅などにかかる固定資産税も含めて、二〇〇四年度に百六十八億円を納めています。
政府の試算をもとに、郵政公社と民営化後の会社の納税(納付)額を比較すると(二〇〇七年度から二〇一六年度の十年間)、民営化会社は郵政公社より約四千億円も少なくなってしまいます。
全体では民間企業の税負担より多くの納付金を国と地方に負担しています。
郵便貯金事業は二〇一六年度に、公社のままなら千三百八十三億円の黒字、民営化されれば六百億円の赤字になるという政府の試算もあります。
民営化は国の財政にも郵政事業の収支にもプラスにはなりません。
■だれのため? 日米の大銀行と生保のため
国民にとっては「百害あって一利なし」の郵政民営化・廃止。では、いったいだれのためなのでしょうか。
■米国の会社簡保を攻撃
米国ではブッシュ米大統領まで巻き込んで、小泉首相に「郵政民営化の進展ぶりはどうか」とチェック(二〇〇四年九月二十一日、ニューヨークでの日米首脳会談)させたのは、米国の大手保険会社などの業界です。「(日本の)簡易保険は、民間企業から仕事を奪っている」(米国の生命保険協会のキーティング会長)と攻撃してきました。
日本で郵貯・簡保の廃止を求めてきたのは銀行や生命保険会社でした。「郵政民営化にあたり、私たちは『公正な競争』が行われることを望みます」。全国銀行協会や生命保険協会が、今年二月に全国紙に掲載した意見広告には、安心で便利な郵便貯金や簡保が、じゃまでじゃまでしかたがないとの思いがにじんでいます。
■廃止にむけ段取りまで
日米の金融業界の代表も参加し、昨年十一月に東京で開かれた日米財界人会議の共同声明は、こううたいました。
「郵貯・簡保が、日本国民一般にユニバーサルサービス(全国一律サービス)を提供し続ける必要はなく、本来的には廃止されるべきである」
共同声明は「廃止」へむけた段取りまで要求しています。
「四つの郵政事業(窓口ネットワーク、郵便、郵便貯金、郵便保険)を四つの独立した法人に分離」し、「四つの郵政事業の間の相互補助を禁止する」ことです。
郵政事業を四つの会社に分解し、財政的に助け合うことも禁止することで、縮小・廃止に追い込んでいこうというシナリオです。
小泉首相が、がんとして譲らず、郵政民営化法案に盛り込まれた四分社化の背景には、新たな大もうけをたくらむ日米金融業界の身勝手な要望があります。
■民営化とは 三事業バラバラ 赤字に転落
郵政民営化法案では、一体で経営されている郵便、貯金、保険の三事業をバラバラにします。三つの会社に分けたうえで、業務は窓口ネットワーク会社(郵便局会社)に委託することになります。「四分社化」です。このことによって、何が起こるでしょうか。
■郵便局網も維持できず
公社では、一体経営だからこそ、経営も安定し、全国津々浦々に広がる郵便局のネットワークが維持でき、全国一律のサービスが提供できています。
現在の郵便局のネットワークは、国民の身近な場所にある郵便局を足場に、安心の度合いが大きい郵貯、簡保が広く利用され、そこから生まれる利益を郵便局、職員の経費にあてて、全額自前で維持されています。
このしくみがあるからこそ、郵政事業は、国民の税金を一円も使わず、人件費も含めすべて独立採算でまかなわれてきました。郵便局を維持するこのおおもとの基盤が壊されたのでは、ネットワークは維持できません。
しかも、貯金、保険には全国一律サービスの義務もなくそうとしています。窓口会社には、金融サービスを行う義務もありません。これでは、全国一律の国民サービスはズタズタにされかねません。
■委託手数料払って赤字
「四分社化」には、税金などの面から赤字に追い込む仕掛けも隠されています。
巨額の消費税です。たとえば、郵便貯金銀行は、窓口会社に業務を委託することになるので、委託手数料を払うことになります。
この手数料には消費税がかかります。その額は、民営化の初年度(二〇〇七年度)で、郵便貯金銀行は四百十一億円、郵便保険会社は三百二十四億円にのぼります。
これには生田正治郵政公社総裁も「一つの会社を上下二つに割っちゃう。郵貯カンパニー(会社)と窓口会社の二つに割ってしまう。そのゆえに民間では起こり得ない消費税が七百億円(保険も含む)も出てしまう」(五月二十七日の衆院郵政特別委員会)と理不尽さに疑問を呈します。
■巨額保険料負担が発生
民間会社になることによって、巨額の預金保険料の負担が発生することも赤字要因となります。
保険料は銀行や保険会社がみずからの破たんに備えて積み立てているものです。
銀行の積立金は現在、三・五兆円の欠損をかかえ破たん状態です。民営化した郵貯銀行は、十年間で合計約九千百億円もの預金保険料を支払う予定になっています。
銀行の不始末のツケを郵便局の利用者に負担させるようなものです。これによって預金保険料の値下げができると喜ぶのは銀行業界です。
公社のままなら黒字なのに、民営化すると郵便事業が十年後には六百億円の赤字になると政府も認める裏には、こんなカラクリがあります。
■国民へのサービスは 「便利で安心」犠牲に
小泉首相や与党は郵政民営化によって、「小さな政府」への流れが確実になるかのようにいっています。しかし、郵政民営化は税金の節約にも財政への貢献にもなりません。結局、国民へのサービスが犠牲になるだけです。これが、小泉流「小さな政府」の姿です。
■これが小泉流「小さな政府」
■窓口の存続経営判断に/郵貯
民営化されると、郵便貯金・簡易保険の事業はそれぞれ民間の銀行、保険会社となり、全国一律サービスの義務付けがなくなります。
国民の身近な金融窓口の存続は、小泉首相らが認めるように、「経営の判断」次第となります。
現に民間銀行は、採算のとれないところからは、店舗をどんどん撤退しています。六年間に(九七年度から二〇〇三年度)に四千八もの店舗がなくなりました。大都市部でも行員のいる店舗が減り、ATM(現金自動預払機)だけの店舗が増えています。
さらに手数料の問題です。お金の時間外引き出しや送金・両替などの高い手数料に加え、民間銀行では口座を持つだけで高い手数料を取るところが増えてきています。郵便局では無料です。
すでに同様のシステムをとるアメリカやイギリスでは口座を持てない国民が増え、「金融排除」が社会問題になっています。
国民には、サービスの低下と不便の押し付けでしかありません。
■不採算地域撤退は必至/簡保
多くの国民のくらしと安心のよりどころとなっている簡易保険はどうなるのでしょうか。
簡保は職業による加入制限はなく、現在病気にかかっている人などを除いて、誰でも入れる少額保険で、加入世帯も約二千六百万世帯に広がっています。郵便局ではその簡保を全国の店舗で取り扱っています。それができるのは、簡保が生命保険を「なるべく安い保険料で提供し…福祉を増進する」ことを目的とした簡易生命保険法にもとづく「公」の事業だからです。
一方で、民間の生命保険会社は店舗すらない町村が全町村の76%もあります。民営化によって簡易生命保険法が廃止され、利益優先の民間保険会社になれば、加入者が少ない地域での事業の撤退は必至です。
■災害時対応維持は困難/郵便
「公」だからこそできるかけがえのない郵便局サービスの一つに災害時の対応があります。
郵便局は災害時に、被災者や自治体を支援するさまざまな救援対策を実施しています。土日・祝日の窓口営業、被災者が差し出す郵便物の料金免除や災害義援金の無料送金サービスなどです。
昨年の新潟県中越地震の被災地では、余震が続くなか、道路が通行止めとなった一部の地域を除き、一日も欠かさずに郵便物を配達。住民からは「元気を届けてもらった」と喜ばれました。
民間の大手宅配各社は集配を見合わせました。
政府は「基金」で「地域貢献活動」をおこなうとしていますが、利益優先の民間まかせで、こうした地域密着のサービスが維持されるという保障はありません。