2005年9月26日(月)「しんぶん赤旗」
中皮腫上回る石綿肺がん死
被害者救済が急務
過去の疫学調査でも石綿肺がんの死亡者は、中皮腫死亡者より多いことが指摘されています。例えば、米国とカナダの断熱作業労働者一万七千八百人を五年間調べた報告(一九七二年)では、死亡者千九十二人のうち肺がん二百十三人で、中皮腫が七十七人でした。
こうした疫学調査から肺がんは中皮腫の二倍程度と推定されてきました。しかしそれでも実態を反映していないことがわかってきました。
石綿被害者の労災認定による救済に取り組んでいるところでは、中皮腫の認定数より肺がんの認定数がはるかに多いのが特徴です。
神奈川県建設労連の取り組みでは八九年以降、今年七月までにがんの関連で労災認定された二十六人のうち、石綿肺がんは十九人、中皮腫が七人。東京土建では、肺がんが十八人、中皮腫四人で、中皮腫の四・五倍になります。労災を申請中や準備中のものを含めるとさらに倍率が高くなっています。申請が増えれば、さらに肺がんの割合が高くなるとみられます。
海老原勇医師によると、建設作業者の肺がんは、石綿を吸引した証拠の胸膜肥厚斑がほとんどの人で認められることから石綿による肺がんとみて差し支えないといいます。
また算定の根拠になっているのは、国保組合加入の作業者で、退職者は対象外です。しかし石綿肺がんは長期の潜伏期間があり、退職してから発病する人も多いため、肺がんは一般人より一・二二倍高いというのは少なめ。このため海老原医師は、石綿肺がんの年間死亡者の算定値約八千人でも少ないとみています。
建設作業者の統計はあっても退職者を含めた統計がないなどの制約もあるなかでの専門医による初めての概算として注目されます。
石綿関連のがんのなかで、肺がんが多数を占めることは明らかであり、見落とされている被害者救済に迅速な対応が求められます。
(松橋隆司)
■あきらめずに労災申請を
■職業性疾患・疫学リサーチセンターの斎藤洋太郎理事の話
中皮腫より肺がんの労災認定が少ないのは、申請する人が少ないことの反映でもあるので被害者はあきらめずに申請しようとよびかけています。
企業は、肺がん患者を出すと保険料が高くなるので認めたがらないということや、喫煙歴があれば、石綿肺がんの可能性を医師に頭から否定されることもあり、申請をあきらめてしまうというケースが多いのです。
政府は新法をつくって石綿被害者を救済するといっていますが、石綿肺がんをわきに押しやったり、わずかな見舞金ですますようなことを許してはならないと思います。被害者の療養費などは、日本共産党が法案大綱で提案しているように労災や公害健康被害補償の水準にすることが大事です。
▼石綿肺がん 石綿を吸いこむ暴露開始から20年―40年で発生。暴露量が多いほど発生率が高い。
中皮腫 肺や胃などの臓器をつつむ胸膜や腹膜にできる悪性腫瘍(しゅよう)。
石綿肺 石綿粉じんを吸入したことによる繊維増殖性の病変。
胸膜肥厚斑 胸膜の外側が厚くなる自覚のない病変。石綿を吸いこんだ証拠となる。