2005年9月28日(水)「しんぶん赤旗」
座長も言葉濁した
米産牛肉プリオン専門調査会安全評価
“輸入再開ありき”に批判
BSE(牛海綿状脳症)発生で日本への輸入を禁止している米国・カナダ産牛肉の安全評価をめぐって、農水・厚労両省が内閣府食品安全委員会に出した諮問の根本的問題点が、同委員会プリオン専門調査会の審議であらためて浮き彫りになっています。無理やり輸入再開をめざす答申原案について「結論ありき」などという批判・異論が続出。輸入再開を急ぐ米日両政府に厳しい結果となっています。委員会審議からリポートします。(宇野龍彦)
■「たら」「れば」で「日米の危険同じ」
二十六日のプリオン専門調査会では、米国と日本の牛肉の汚染リスクは「同等」とする答申原案の欠陥があぶりだされました。
答申原案は、生後二十カ月以下の牛の日本向けの牛肉について、米国内ですべて、せき髄除去と洗浄が行われることを前提にしました。そのうえで、せき髄からBSE汚染されることは「日本と同様に無視できる」という内容でした。さらに、二十カ月以下という月齢判定が困難な内臓肉も「危険部位の除去が適切に行われていれば、(日米の)リスクは同等である」とも評価しました。
つまり、「たら」「れば」という仮定を前提にしてリスク評価しようとしたのです。きわめて乱暴な論法です。
■米の危険な実態指摘も
他方、答申原案の別の項目では、日本と比べて危険な米国の実態をさまざまな角度から指摘していました。
――米国内の生体牛のBSE汚染について「悲観的には日本より十倍くらい高い可能性がある」
――日米の検査結果の比較から、米国のBSE感染牛は日本の五、六倍多い
――米国では食肉解体処理時に健康な牛のBSE全頭検査が実施されていないために「検査によるリスク回避が不可能である」
――米国では、大規模な食肉解体施設で、一人で一日五千頭を目視検査する必要があり、「異常牛が見逃される危険性が高いことは否定できない」
――米国のずさんな検査体制で、BSEが見逃されていた可能性があり、「米国の報告どおりには受け入れられず、摘発の可能性は報告より高い」
――二十カ月以下の牛について、肉骨粉の製造ライン分離がきちんとされていない米国ではBSEの病原に「一定の割合で交差汚染がおこった可能性が否定できない」
これだけ指摘しながら、なぜ、仮定を重ねて無理やりに「リスクは同等」とするのか。専門家が批判し、疑問を提起するのは当然でしょう。
複数の委員から「除去が適切に行われていればとか、適切に除去すればという仮定で同等というべきではなく、削除すべきだ」「結論ありきにみえてしまう」などの意見が続出しました。
そもそも米国では月齢判定のための個体識別システムがなく、危険部位をきれいに取り除けるという体制上の保証もありません。
■日米政府の思惑崩れる
プリオン専門調査会の吉川泰弘座長も「まだ実行されていない上乗せ条件を前提に、評価するのはむずかしい」と言葉を濁さざるをえませんでした。次回に再度修正案を提出して審議することになったのは当然の結果でした。
これまで築いた国内のBSE検査体制や牛の個体識別システムなどなくても、米国と「リスクは同じ」ということになれば、米国産牛肉輸入再開のために、国内のBSE体制を崩壊させることにもなります。
早期解禁をめざす米日両政府の思惑は次つぎ崩れています。これは、そもそも諮問自体に無理があるからです。昨年十月に日米両政府は、二十カ月以下の危険部位を除去した牛肉・内臓肉という「架空」の条件で安全性を評価し、輸入解禁をさせようとすることで合意しました。そこに矛盾の根源があります。
■本末転倒の政府諮問
プリオン病研究者の福岡伸一・青山学院大学教授(分子生物学者)の話 米国でBSEのリスク対策が完全に行われてくることを前提にして、政府が評価を求めること自体が本末転倒です。
政府の諮問は「日米が同等」「リスクの増加は無視できる」という答申を導くためのものです。委員から「結論ありきにみえてしまう」と疑問がでるのも当然です。
リスクの軽重を、死者の数をベースとした数値の大小で問うべきではありません。米国から圧力をかけられ、経済制裁をちらつかせながら、日本が全頭検査から二十カ月以下の検査を除外してまで輸入再開をするというのは、とうてい冷静な議論とはいえません。
「リスクが同等」ということになれば、つぎは日本のBSE検査体制そのものが「不要」だということにもなりかねません。
感染源が不明な現在、日本のBSE検査は、BSE感染牛を食から排除するということだけでなく、原因究明のための科学的意義もあります。むしろ米国が食肉解体時にBSE検査をおこない、BSE対策の不備を改善して、日本と同等にするよう求めるのが筋道です。