2005年9月29日(木)「しんぶん赤旗」
志位委員長の代表質問
衆院本会議
日本共産党の志位和夫委員長が二十八日の衆院本会議でおこなった代表質問(大要)は次のとおりです。
■郵政民営化――首相は国民に真実を語ったか
日本共産党を代表して、小泉首相に質問します。
まず郵政民営化問題についてです。首相は、総選挙の結果をもって、郵政民営化は「多くの国民の信任」をえたとして、一気呵成(かせい)に法案成立をはかろうとしています。しかし、ここには二つの重大な問題があります。
第一に、与党は、議席では圧倒的多数をしめましたが、小選挙区でえた得票は49%にすぎないということです。首相は、「民営化に賛成か反対か、国民に聞きたい」とのべ、“民営化の是非を問う国民投票”だと位置づけて、審判をあおぎました。しかし「民営化に賛成」と答えた国民は、半数に満たなかったのです。この結果をもって「多くの国民の信任」をえたとは、到底いえないのではありませんか。
第二は、首相が、国民に真実を語ったかという問題です。首相は、「民営化すれば公務員が減らせる」「税金を払うようになる」と繰り返しましたが、郵政事業には国民の税金が一円も使われていないこと、郵政公社のままでも利益の半分は国庫に納付する仕組みになっていること――この二つの事実を、解散から投票日までの期間に、一度でも国民に語ったことがありますか。はっきりとお答え願いたい。もしも、これらの重大な事実を語ってこなかったとすれば、この選挙結果は、国民をあざむいてえた結果だと、断ぜざるをえません。
もともと郵政民営化は、国民の要求ではじまったことではありません。日米の大銀行と大手保険会社、アメリカ政府によって、「郵貯・簡保を民営化せよ」「縮小・廃止せよ」との要求が繰り返され、それにこたえてすすめられたというのが、ことの真相でした。首相は、この真相も、国民に隠しつづけたではありませんか。
真実を語らず、ことの真相を隠し、それでもえた得票は半数に満たなかった。この選挙結果をもって、まともな審議ぬきに郵政民営化法案をごり押しすることは、絶対に許されません。日本共産党は、徹底審議のうえで廃案にすることを、強くもとめるものであります。
■暮らしにかかわって緊急に問われている問題について
次に国民の暮らしにかかわる、二つの緊急の問題について質問します。
■障害者法案――働く場と生きがいを奪うことがどうして「自立支援」か
一つは、政府が、前国会で廃案となった障害者「自立支援」法案を、ふたたび強行しようとしていることです。この法案の最大の問題は、障害者が利用するすべてのサービスに一割の自己負担を導入することにあります。利用料負担は、授産施設や共同作業所の利用にもおしつけられます。「授産施設で働くことなどせず、家でじっとしていろとでもいうのでしょうか」。これは自立に努力している障害者の方の痛切な声です。懸命に働いて手にするわずかな工賃をはるかに上回る利用料を取り立て、働く場と生きがいを奪うことが、どうして自立支援なのか。しかと説明していただきたい。障害者の自立を妨げ、生きる権利を奪う法案は、きっぱり断念すべきであります。
■庶民増税――公約違反、庶民ねらいうちの増税をどう説明するのか
いま一つは、庶民増税の問題です。谷垣財務大臣は、投票日の翌々日の記者会見で、所得税・住民税の定率減税を廃止する方針を表明しました。定率減税が廃止されると、総額で三・三兆円の増税、年収四百万円から九百万円までの圧倒的多数のサラリーマン世帯で、所得税・住民税が二割以上も増えることになります。ことはきわめて重大です。自民党は、総選挙で掲げた「政権公約」で、「『サラリーマン増税』を行うとの政府税調の考え方はとらない」と明記していたからです。
首相にただしたい。六月に政府税調がうちだした方針は、その冒頭で、「平成十八年度に、定率減税を廃止する……必要がある」とのべています。定率減税の廃止とは、まさに「サラリーマン増税」そのものではありませんか。定率減税の廃止に踏み出すことは、「『サラリーマン増税』を行うとの政府税調の考え方はとらない」とした、自らの「政権公約」を踏みにじる、文字どおりの公約違反ではありませんか。はっきりとお答え願いたい。
さらに首相にただしたい。一九九九年に「恒久的減税」としておこなわれたのは、所得税・住民税の定率減税だけではありません。大企業むけの法人税の減税、大金持ちが潤う所得税の最高税率の引き下げも、同時におこなわれました。
なぜ大企業、大金持ちへの減税はそのままにし、庶民を狙いうちにする増税だけをおこなうのか。この六年間に、大企業のもうけは倍増し、大企業の株主への配当も倍増し、大企業の役員の賞与は三倍近くになっています。反対に、家計の所得は、総額で十四兆円も落ち込んでいます。見直すというならば、大企業、大金持ちへのゆきすぎた減税措置こそ、まっさきに見直すべきではありませんか。少なくとも、今年度で期限が切れる大企業むけの特別の優遇税制――年間一・二兆円にのぼる研究開発減税とIT減税は、予定どおり終了すべきではありませんか。答弁をもとめます。
■イラク派兵と憲法問題について
つぎに、イラクへの自衛隊派兵と、憲法問題について質問します。
■イラクの情勢の前向きの打開のためにも、自衛隊のすみやかな撤退を
イラクの情勢は、イラク首相自身が「われわれは戦争状態にある。それも最悪の種類の戦争である」とのべるなど、きわめて深刻です。情勢悪化の根本原因は、無法な侵略戦争につづく軍事占領、さらに米英軍などが掃討作戦と称して、女性や子どももふくめた民間人を無差別に殺りくしていることが、暴力とテロの悪循環をつくっていることにあります。首相は、イラクの情勢悪化とその原因を、どう認識しているのですか。十二月に派兵期限が切れる自衛隊について、首相は、「情勢をみて判断する」とのべましたが、情勢の前向きの打開のためにも、期限をきめた占領軍の撤退、自衛隊のすみやかな撤退こそ必要ではありませんか。答弁をもとめます。
■憲法改定――首相は九条のどこを、どう変えるというのか
最後に、憲法問題について質問します。首相は、選挙のなかで、憲法についても、国民に何も語りませんでした。ところが、選挙が終わるとすぐに、与党と民主党によって、国民投票法案のための特別委員会設置が強行されるなど、改憲にむけた動きがおこっていることに、多くの国民が不安と批判を強めています。
憲法改定の焦点が、九条を変えることにあることは明りょうです。そこで首相にうかがいたい。いったい首相は、九条のどこを、どう変えようとしているのですか。黙っていないで、自らの考えをのべるべきです。これまで政府は、「憲法九条のもとでは、海外での武力の行使はできない」ことを建前としてきました。首相は、この建前を突破するような方向での改定を考えているのですか。はっきりとお答え願いたい。
今年は、戦後六十年の記念の年です。戦後、日本の軍隊は、一人の外国人も殺さず、幸いなことに、これまで一人の戦死者も出さないできました。これは憲法九条が存在したおかげであり、その歴史は世界に誇るべきものであると私は確信します。憲法九条を変え、日本を「海外で戦争をする国」にしてはならないということを強く訴えて、私の質問を終わります。
■志位委員長への小泉首相の答弁(要旨)
日本共産党の志位和夫委員長に対する小泉純一郎首相の答弁(要旨)は次のとおり。
【総選挙結果に対する認識】今回、自民党、公明党合わせて、目標の過半数を超える議席を獲得することができた。国民の「改革を止めるな」「構造改革を進めよう」という声だと受け止めて、郵政民営化を実現するとともに、引き続き構造改革を断行していきたいと考えている。
【郵政についてきちんと国民に語っていなかったのではないか】総選挙の際の討論の場においても、郵政公社は固定資産税や印紙税、預金保険料を民間と同じようには納付しておらず、見えない国民負担が存在すること、また、公社のままでは経営が中期的にはジリ貧であり利益は期待できないが、基準額を超える利益が発生しない場合は納付金は納めない可能性がある。民営化すれば、民間とのイコールフッティング(対等条件)のもとに事業を拡大できるための利益があり法人税も期待できる、といった点を説明した。総選挙で、このような点を含めた郵政民営化の利点を十分説明したうえで郵政民営化の是非を問い、結果として多数の支持を得たところであり、国民に語っていないとの指摘はあたらない。
【郵政民営化は日米大銀行などの要求に応えたものではないか】米国が郵政民営化の必要性を説いている前から、郵政民営化の必要性を訴えてきた。米国の要求にこたえたものであるとの指摘はあたらない。
【障害者「自立支援」法案について】新たにサービスを利用する障害者が増えることが見込まれるなかで、必要なサービスを確保するためには、その費用について、利用者の方々も含め、みなで支え合っていくことが必要となっている。近く国会に提出を予定している障害者自立支援法案においては、在宅福祉サービスに関する国等の負担を義務的なものとするとともに、利用者負担を見直し定率一割負担を導入することとしている。障害者等の家計に与える影響を十分に考慮して、月ごとの負担の上限額を設定することや、収入、預貯金の状況に応じて個別に減免するなど、各般のきめ細かな負担の軽減措置を講じることとしており、障害のある方が自立して生活していくという観点から、十分な配慮をしている。この法案の一刻も早い成立が必要と考えている。
【定率減税廃止について】定率減税の見直しは景気対策として暫定的な税負担の軽減措置を経済情勢等に応じて見直すというものだ。定率減税はサラリーマンのみならず自営業者などすべての所得税納税者を対象とするものだから、いわゆるサラリーマン増税とは異なるものと考えている。定率減税の残り半分については、年末の平成十八(二〇〇六)年度税制改正においてこれまでの議論をふまえ、経済情勢等を十分に見極めつつ今後議論していくべき事柄と考えている。
【大企業・金持ちへの減税措置について】平成十一(一九九九)年度税制改正で実施された個人所得課税の最高税率および法人課税の実効税率の引き下げは、国際化の進展といったわが国経済社会の構造変化に対応した抜本的な税制改革の一部先取りとして実施されたもので、景気対策である定率減税とは位置付けが異なるものと考えている。
【研究開発減税とIT減税について】これらの措置の今後のあり方については導入の経緯や経済状況等をふまえて検討していく。
【イラク情勢について】イラクでは地域ごとに異なるものの依然予断を許さない治安情勢が続いている。その原因にはさまざまなものがあるがイラク国民は現在みずからの手で平和な民主国家を建設中で、その一環としてイラク政府は治安改善に努力している。
【自衛隊派兵について】派遣期間終了後の対応については、国際協調のなかで日本の果たすべき責任、イラク復興支援の現状、諸外国の支援状況等をふまえ、日本の国益を十分に勘案して判断すべきものと考える。
【憲法改定問題について】民主主義、平和主義および基本的人権の尊重という現行憲法の基本理念については、多くの国民からも広く支持されてきたものであり、将来においても堅持すべきものと考えている。他方、憲法九条や自衛権のあり方にはさまざまな議論があるが、戦後六十年のわが国の歩みを振り返れば、日本の国民が軍国主義を否定し国際的な平和と安定に積極的に寄与していることは、国際的にも理解が得られているものと考えている。今後の憲法改正の議論もこの方向を堅持しながらわが国の実態に合致するものを模索すべきだ。憲法改正については時間をかけて十分に議論することが大事だ。自民党は党としての改正案をとりまとめる予定であり、公明党はじめ各党や国会においても議論が行われている。これらを通じて、新しい時代における憲法のあり方について大いに国民的議論を深めていただきたい。