2005年10月15日(土)「しんぶん赤旗」
郵政法案 だれのための民営化か
大門議員の質問 参院委
(大要)
十三日の参院郵政民営化特別委員会で日本共産党の大門実紀史議員がおこなった質問(大要)を紹介します。
振込手数料値上げに
首相「政治家口出せない」
大門実紀史議員 郵貯が民営化されれば、市場原理の民間銀行になります。本当に今よりも国民サービスが良くなるのか。今、郵貯のサービスの中で一番喜ばれているのが、振込料が安いということです。これはどうなるかということを端的にお聞きをしたいと思います。
今、郵貯の場合、郵便局から郵便局に送る場合は百二十円、郵便局から民間の、提携しているところですけれども、送る場合は二百九十円となります。これは民間の世界になりますと、書いてあるとおり、一つの銀行のほかの支店に送る場合は五百二十五円、他行扱い、ほかの銀行に送る場合は八百四十円になります。(図1)
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振込手数料というのはサービスの基本的な中身です。郵貯が民間銀行になって、この振込手数料が上がらないと、はっきりと言えるんでしょうか。
小泉純一郎首相 それは、民営化になったら、政府、総理大臣が、上げろ上げろなんて言えるわけないじゃないですか。
■市場原理は甘くはない
大門 サービスが良くなるとおっしゃっているから聞いているわけです。じゃ、上げないとは言えないわけですか。
首相 民間企業のことにまで政治が、政党が、政治家が口出す、料金まで上げろ上げろなんて言うことはできないということを言ったわけです。
政治の関与はなくなる、民間の自由な創意工夫が発揮される、そういう環境をつくっていくのが政治として大事だと思っております。
大門 いくらになるかということを聞いているわけじゃなくて、今より良くなるのかどうかとお聞きしたわけです。
郵貯銀行は民間になれば新商品を出したりいろいろビジネスモデルを展開していくと。そうなりますと、全銀ネットに入ってやっていかないと新たな展開というのは難しいと思います。私は(手数料が)徐々に上がる方向になるのは間違いないと思いましたので、国民の皆さんが、今のままだとか誤解されている方がいるんじゃないかと思ったので総理にお聞きをしたのです。
民営化で国民のサービスが良くなるとは限らないと、民間の市場原理というのはそんな甘い世界ではありません。郵貯よりも良くなるということは私は言えないというふうに思います。
米大使館と毎週会合
首相「日本への進出歓迎」
大門 この民営化で何か国民に一つでもいいことがあるのか私はずっと疑問を持って質問をしてまいりましたけれども、要するに、だれが得するのかと、だれが喜んでいるのかと。
これは、総選挙で自民党が圧勝をして、それを歓迎して露骨に喜んでいる人たちがいます。
一つは、日本の銀行業界、生命保険業界の方々で、早期に改革が実現することを、歓迎するコメントを発表しております。日本の新聞はあまり取り上げませんが、欧米の新聞は、ウォール・ストリート・ジャーナルもフィナンシャル・タイムズも、はっきりと書いています。この郵政の民営化で得をするのはアメリカのビジネス業界、金融業界、それとアメリカ政府だということも言っておりまして、この選挙の結果を踏まえてそういうことを発表をしています。
アメリカの議会下院で、歳入委員会が九月の二十八日に開かれております。この公聴会の議事録をお手元にお配りをいたしました。
「日米経済・貿易に関する公聴会」が七年ぶりに開催をされて、ここで、今後日本の郵政民営化の過程にどうアメリカの要求を入れさせるか、議会として入念に議員が担当者を点検しております。
質問に答えて、ウェンディー・カトラーさん、米国通商代表部(USTR)日本担当の代表補ですけれども、いろんなことを答えています。全部紹介いたしませんが、要するに、この日本の郵政民営化というのは最重要課題であると、ホワイトハウスも財務省も国務省も緊密に協力していると、政府を挙げて取り組んでいるということ。
■会合出席した「重要人物」は
注目したのは、そのために在日米国大使館は、日本でこの課題に取り組む重要人物たち、キープレーヤーと週に一回の会合を行っていると。さらに、率直に言うならということで、日本政府の中にわれわれの立場に大変共鳴する人たちがいるというようなことを答えております。
議会の証言ですから私は根拠があってきちっと答えていると思いますけれども、この課題に取り組む重要人物とはだれのことなのか。あるいは、毎週定期的に何を話し合っているのかというのは、向こうは証言しておるわけだからご存じだと思いますから、教えてください。
竹中平蔵郵政民営化担当相 今、これ初めて見せていただきましたが、よく分かりません。このプレーヤーと称する方々が日本人なのかアメリカ人なのかも含めて、これはよく分かりません。
大門 これは日本人です。日本の方です。これは前国会で、私、アメリカと十八回協議していると、うち十一回はアメリカ政府と協議をしているということをお聞きしましたけれども、それとは別ですね、この毎週のミーティングというのは。
竹中 ちょっと私の知らないことですので、お答えする資格もありませんし、立場にもございません。
■米議会証言根拠がある
大門 向こうの議会での証言ですから、私、重い証言で、根拠があると思います。
そもそも、わが国の法案についてアメリカ大使館と毎週会合を開いて打ち合わせすると、こんなことは異常だと思われませんか、竹中さん。
竹中 ですから、私には何とも答えようがございません。
大門 向こうの議会の証言ですから、きちっと調べてご報告いただけますか。
竹中 私は郵政民営化準備室等々の担当をしておりますけれども、USTRは担当しておりません。
大門 総理、調べていただけますか。
首相 何で調べるんですか。関係ないことですよ。アメリカが関心を持っているということは結構だと思いますよ。アメリカの進出のチャンスがあるのかと考えるのは自由ですから。日本に進出したいならどうぞ、できるようにしてくださいと、歓迎しますよ。
大門 国会の委員会で質問して聞いているわけです。今分かりませんとおっしゃったから、それならば調べて答えてくださいと言っているのを、なぜ調べなきゃいけないとは何ですか、その言い方は。国会に対して何ですか、総理といえど。
委員長、理事会で諮ってください、これをちゃんと出してもらうように。よろしくお願いします。
陣内孝雄委員長 後刻理事会で協議いたします。
大門 私は、なぜこれを申し上げるかというと、前国会でアメリカのUSTRの公式文書、政府の公式文書に日本にアメリカの要求を入れさせたということをとりあげました。その基になっているのが、週一回会っているとかそういう話になっているからお聞きしているわけです。
法改正、異常な仕組み
首相「米の要求聞く会だ」
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大門 事は郵政民営化だけではございません。この十年間、ことごとくアメリカの要望というのが日本の法改正で実現をしてきております(図2)。アメリカの要望が、大店法の問題、商法の問題、労働法制の問題、会社法の問題、そして郵政民営化ということで日本の法改正にずっと取り入れられてきています。さらに言えば、今度は医療制度「改革」、混合診療、株式会社参入、これがアメリカの方の要望になっていて、日本でも議論が始まっております。これは異常じゃないかと私は思うわけです。
とくに異常なのは仕組みの方です。これは単に単発で要求を取り入れたということではありません。アメリカと日本で年次改革要望書というのを十年前から取り交わしております。それに対する回答を、大体サミットの時期、首脳会談で出すと。それで実現したものを、アメリカは貿易障壁報告書というものをアメリカ国内に向けて出して、成果を取ったと、日本に実現させたということを自慢をしていると。こういう関係になっています。
■米の要望をのませるため
日本だって要望を出していると言われますけど、調べてみたら、日本がアメリカに出した要望で実現しているのはビザの発給の効率化とか小さなことばかりで、アリバイ程度の話だと。事実、アメリカの元のUSTRの日本担当部長のグレン・フクシマさんという方は、そういう仕組みというのは、アメリカの要望を日本にのませるためにつくったんだと、機能しているんだと答えております。
日本とアメリカの政府の間で日本の政策を決める、そういうシステム、仕組みがあることそのものが私は大変異常だと思いますが、総理はいかが思われますか。
首相 私は外資歓迎論を取っていますから。G8の諸国の中でも日本は外資が非常に入りにくい国であると。今、倍増をしたって、まだG8の諸国に比べれば外国企業なり外国資本が活躍、割合はもう格段に低いと。
アメリカが日本の市場に注目しているというのは、日本として、ああ、捨てたもんじゃないなと、日本もそれだけ魅力ある国になったのかと歓迎すべきことだと思っています。
大門 どうして真っすぐにお答えされないんでしょうか。そういうはぐらかしは、本当にもう我慢できないわけです。
お聞きしたのは、日米のそういう仕組みがあること、そういう仕組みの中で決められていることが異常ではないかということを申し上げたんです。
首相 異常でも何でもない。対話が大事ですから、アメリカがどういう要求をしているのかというのを聞く一つの会だと考えれば、異常でもないと思っています。
■日本だけが特定の国と
大門 私は、これから日本はアジアなりEU(欧州連合)といろいろなことをやっていかなきゃならない中で、特定の国とこういう仕組みを持って政策が決められていくということは世界から見ると異常です。日本だけです、こんなことをやっているのは。そういう中で、今回の郵政民営化のこともいろいろアメリカの要求が入ってきています。結果がすべてを物語っている。
公的貯蓄なくなり世界の流れに逆行
大門 これから郵貯の民営化が何をもたらすかという点をお話をしたいと思います。
今、日本に先んじて金融の自由化を進めたアメリカやイギリスは、民間銀行が小口預金者を相手にしない。大口はいろいろ優遇するけれども、小口の預金者はコストがかかるということで、いろんな手数料を引き上げて口座を持たないでくれという小口預金者排除が世界では問題になっております。
例えば、アメリカでは低所得者の四割近くが口座を持てない。イギリスでは五世帯に一世帯が銀行口座を持てないということで大変問題になっております。
なぜこんなことが起きているか。世界貯蓄銀行と世界銀行の、総会が去年、開かれました。そこで共同決議というのが出ております。小口預金者の排除というのは非常に社会的に問題なんだと、基本的人権にかかわるんだと、だから、小口預金者を守る取り組みを頑張ってやるべきだという決議を上げております。その中で、郵便貯金や貯蓄銀行などの公的貯蓄部門の役割が決定的なんだということを述べているんです。
■小口預金者を守る砦なくす
今、主要国でその世銀と貯蓄銀行が指摘をした公的部門がどうなっているか。(図3)
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アメリカは、もうオール民間銀行の世界です。イギリスは少しだけ公的部門、国民貯蓄庁があり、フランスの場合は郵貯と貯蓄金庫があります。ドイツの場合は貯蓄銀行があります。ドイツは郵政民営化しても貯蓄銀行が存在し、金融排除というのは、あまり起こらなかったわけです。
日本では、今郵貯が公的貯蓄部門の役割を果たしている。これが民営化されますと、100%民間の世界になってしまいます。アメリカと同じ世界に入ろうとしているわけですね。「公的貯蓄部門」を守って小口預金者の排除をなくそうという世界の流れの中で、日本だけがわざわざなくそうとしている。
政府も二〇〇〇年の六月には、世界ではそういうことが起きているから小口預金者を守る砦(とりで)として郵貯を発展させていこうと、政府自身もそうおっしゃってきた。にもかかわらず、今回、小泉内閣になって方向転換をして、公的部門をなくそうということに踏み出されているわけです。
これから何が起こるか、みんなが心配しているのはこの部分でございます。これが郵貯の民営化で一番心配される本質的な問題だということを指摘して、私の質問は終わりたいと思います。