2005年10月26日(水)「しんぶん赤旗」
参院委で可決 労安法等改悪案
過労死予防の大幅後退
労働行政の責任を放棄
小泉内閣が提出した労働安全衛生法や労働時間短縮促進法などの改悪法案が二十五日、参院厚生労働委員会で日本共産党の反対、自民、公明、民主、社民党の賛成で可決されました。唯一反対した日本共産党の小池晃議員の追及で反労働者的な法案の内容が改めて浮き彫りになりました。
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労安法改悪案は、従来の厚労省の過重労働防止通達(二〇〇二年)より大きく後退しています。
通達は企業に対して、一カ月平均の残業時間が月八十時間を超える労働者に産業医の面接指導を求めていたのに、法案では「百時間以上の残業」「本人の申し出」という二つの条件がない限り産業医の面接指導をしなくてもよくなりました。
月百時間以上の残業をして倒れた場合、現行の過労死認定基準ではほとんど労災が認定されています。百時間は、いつ死んでも不思議ではない長時間残業です。
小池氏が指摘するように、財界系のシンクタンク、社会経済生産性本部の調査でも残業が月六十時間以上になると、「自殺念慮が増える」と警告を発しているほどです。にもかかわらず月百時間を超えないと面接指導を義務付けないというのでは、「過労死してから相談に来い」ということになってしまいます。
■「申し出」が条件
さらに問題なのは「本人の申し出」を条件にしていることです。労働者の競争を激化させる成果主義がはびこる企業社会では、労働者が簡単に申し出られるような状況にありません。申し出たくても申し出られないからこそ、過労死や過労自殺が続発しているのです。
小池氏が指摘するように、疲れているかどうかを労働者の自主的な判断に任せていては過重労働防止対策になりません。
現行の過重労働防止通達は「月四十五時間を超える残業をさせた場合、産業医の助言指導を受ける」となっています。四十五時間を超えると業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強まるという医学的所見に立って出されているものです。本当に過労死を予防するというのなら、月四十五時間以上で産業医の面接指導を受けさせ、「本人の申し出」という条件は撤廃すべきです。
一方、時短促進法改悪案は、欧米からの批判を受けて国際公約した「年間千八百時間」の時短目標を取り下げ、目標を掲げない法律に変更するもの。十九回も重ねた政府決定を廃止して、厚労相の指針に格下げし、「労使の自主的な努力」に委ねようとしています。
労安法改悪で過労死予防を後退させ、そのうえ時短目標を投げ捨てるのは労働行政の責任放棄にほかなりません。
小池氏は、「労使自治」の典型的なケースとして、長時間労働を生みだす元凶になっている三六協定の「特別条項」の実態を追及しました。
■特別条項の実態
三六協定というのは、労働基準法三六条でうたわれた一日八時間、週四十時間労働の例外規定として設けられたもので、労資が協定を結べば時間外労働をさせることができます。特別条項付き協定を結べば、三六協定で定める時間外労働の限度時間、一カ月四十五時間、年間三百六十時間を超えて時間外労働をいくらでも上積みできる仕組みになっています。
特別条項の適用は「一時的突発的に時間外労働を行わせる必要があるもの」に限定されています。しかし、実態は特別条項とは名ばかりで恒常的な長時間労働の口実に使われています。
厚労省の調べでは、特別条項付き協定で年間一千時間以上の時間外労働の協定を結んでいる企業が0・4%あります。一流企業でも、過労死してもおかしくない年間八百時間、月百時間の協定はザラです。
小池氏が指摘するように、過労死が起きても当然というような特別条項付き協定を認めている国や労働行政の責任は重大です。長時間労働が放置され、過労死がまん延する日本の企業社会でいま必要なのは、労働基準法を改正して時間外労働の上限規制に踏み切ることです。財界の都合のよい「労使自治」の方向ではなく、まして労働時間規制の撤廃や過労死予防を後退させることでは決してありません。(中村隆典)