2005年10月27日(木)「しんぶん赤旗」

小泉靖国参拝 欧米で大議論

歴史観に“困惑”も指摘

米保守派コラムニスト 


 【ワシントン=鎌塚由美】小泉首相の靖国神社参拝に米国でも批判的論調が目立つなか、保守派のコラムニスト、ロバート・ノバク氏がワシントン・ポスト紙二十四日付に小泉首相を擁護するコラムを寄稿しました。

 同氏は、中国からの抗議は「外交カード」にすぎないなどと述べる一方で、靖国神社の戦争博物館・遊就館の歴史観は親日的なシーファー駐日米大使さえも「困惑させている」と指摘しました。

 ノバク氏は、小泉首相が靖国神社に参拝した三日後に首相官邸で小泉首相と会ったとして、小泉首相の言い分を紹介。石原東京都知事とも会食したとするノバク氏は、石原氏が中国の軍事力に対する懸念を抱いていることや、小泉首相自身も「中国の軍事強化には気をつけなくてはならない。いっそうの透明性が求められる」と同氏に述べたことを紹介し、靖国参拝の「背景」に中国への対抗があるとの見方を示しています。

 そのうえで、「靖国神社の大きな問題」は、東条英機を含む戦犯が合祀(ごうし)されていることであり、「隣接の、神社の職員によって運営されている博物館は、友好的な米国人シーファー駐日米大使さえも困惑させている」と紹介。自ら遊就館を訪れて、「日本は中国侵略や真珠湾攻撃を強要され、欧州の植民地主義からアジアを解放するというもう一つの歴史観を知った」と述べました。

 同氏は、今日の問題とは「無関係だと思える」と小泉首相を擁護しているものの、その歴史観は「敗者によって書かれた歴史だ」と評しています。

 日本の「軍国主義」を問題にする中国の懸念は当たらないと述べつつも、「米国にとっての悪夢は、もはや米国は信用できないとして米国なしで日本の再軍備を決意することである」と表明。「それはブッシュ政権が参拝を喜ばない十分な理由である」とし、日本が日米同盟の枠を超えて軍国主義に進むことのないようクギを刺しました。

 ノバク氏は保守派コラムニストとして有名で、同氏を「共和党の政治工作員」と批判する声もあります。ブッシュ政権の高官が中央情報局(CIA)工作員の名前をメディアにリークした問題では、同工作員の名前を最初に暴露した人物です。


■「謝罪」を台無しに

■英フィナンシャル・タイムズ紙

 英紙フィナンシャル・タイムズは二十四日付社説で小泉首相の靖国参拝をとりあげ、戦後六十年に際して行った謝罪を台無しにしてしまったと批判しました。

 社説は、小泉首相が選挙後、国連常任理事国入りの問題と絡めて、国連分担金問題を出していることを指摘。だが、こうした問題は「すぐれた外交政策の代わりにはならない」と強調し、日本を普通の国にするために小泉首相に必要なのは、よい外交なのだと述べています。

 そして、靖国神社を「戦争犯罪人を追悼している」と特徴づけながら、首相の靖国参拝は「戦争終結六十年に日本侵略の犠牲者に謝罪した外交の成果を台無しにしてしまった」、「靖国問題と反省の欠如」が各国に国連安保理常任理事国入りという「日本の野望を妨害する完全な口実を与えた」と述べました。

 また、同紙二十二・二十三日付は、「聖なる地と世俗の争い」と題して、小泉首相の靖国神社参拝を論評しました。

 同記事は、小泉首相が今回の参拝でそれまでの羽織はかまをやめて平服を着用し、一個人の私的な参拝であることをアピールしたのは、その直前の大阪高裁の公式参拝違憲判決を受けたものだと指摘。

 その気遣いも中韓両国の感情を和らげるものではなく、むしろナチスの制服を着てパーティーに参加したために世界から非難を浴びた英国のハリー王子の行いに匹敵し、日本と中韓両国との外交関係の火種となったとしています。


■日本を孤立させる

■米戦略研究所・部長

 米国戦略国際問題研究所(CSIS)太平洋フォーラム研究部長のブラッド・グロッサーマン氏は、国際英字紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙二十五日付に「小泉の危険な公約」と題する論評を寄稿。小泉首相の靖国参拝について「小泉首相とその後継者は、地域における日本の立場を心配すべきだ」と警告しました。

 同氏は靖国参拝が日中、日韓関係を損ね、東南アジア諸国をも仰天させていると指摘。「日本の総理大臣が戦没者に敬意を表し、国民に健全な愛国心を教えこむ権利については異論はない」が、国内の支援者受けを狙った行動は「国際的には高くつく。それは日本を孤立させ、アジアにおける指導的役割をめざす日本の立場を喪失させる」と述べました。

 同氏は、外国の感情に対する日本の無関心が領土問題など重要な問題で他国の妥協を困難にし、北朝鮮の拉致問題や国連安保理常任理事国入りでの日本の要求への共感は期待できなくなると警告しています。

 日米関係について「地域で孤立すれば、日本は米国にさらに接近する。これは短期的には同盟関係にとって役立つだろうが、長期的には危険である」「米国による日本への『支持』が、いつか(周辺国に)『甘やかし』に見えるかもしれないという現実のリスクがある」と指摘。「靖国参拝がもたらす結果と、米国の国益に及ぼす影響に、米国の政策立案者たちは関心を払うべきだ」と主張し、「日本の態度が地域の緊張を高めており、米国がそれを励ましているとの非難さえ起こりかねない」と述べました。


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