2005年10月29日(土)「しんぶん赤旗」
米CIA工作員漏えい事件
核心はイラク戦争への情報操作
正副大統領の最重要側近の関与が問われ、ブッシュ米政権を揺るがしてきた中央情報局(CIA)漏えい事件。特別検察官の決定を前に大詰めを迎えています。問題の核心は、虚偽情報で国民を欺きイラク戦争を強行した同政権の最大の政治犯罪に直結しています。
事件は、CIA秘密工作員の実名をメディアに漏えいする違法行為をローブ大統領次席補佐官とリビー副大統領首席補佐官が犯したというもの。「史上最強の副大統領」といわれるチェイニー副大統領がこれを仕切ったとの疑惑が急浮上してきました。
9・11同時テロ前の二〇〇一年一月の政権発足当初から、イラク・フセイン政権打倒を目指していたブッシュ政権。先導役の一人がチェイニー氏でした。
イラク攻撃に至る政権の内幕を描いたウッドワード・ワシントン・ポスト編集局次長の『攻撃計画』は、チェイニー氏がイラク敵視の旗振りをしていた姿を描いています。
■「証拠を探せ」
オニール財務長官(当時)によれば、政権発足後の最初の国家安全保障会議(NSC)の会合の議題はイラク問題でした(同氏の証言に基づくサスキンド著『忠誠の代償』による)。
クラーク・テロ対策国家調整官(当時)の『爆弾証言―すべての敵に向かって』によれば、9・11事件の翌日にブッシュ大統領がクラーク氏らに命じたのは、「事件へのフセイン政権の関与の証拠を探せ」でした。
同年十二月にアフガニスタン戦争でタリバン政権を打倒すると、ブッシュ政権は対イラク戦争の軍事的準備を本格化させます。戦争を議会と国民に承認させるため、同政権に必要なのは戦争の大義名分でした。その最大のものがイラクの大量破壊兵器(WMD)開発・保有疑惑でした。
疑惑に説得力をもたせるには証拠が必要です。そこに浮上したのが、イラクが西アフリカのニジェールで核開発用のウランを探しているとの情報でした。そこで〇二年二月、ウィルソン元ガボン駐在大使がCIAの命で同国に派遣されました。
しかし、これはガセネタでした。ニジェールのウランはフランス系国際合弁企業が管理し、イラクが関与する余地はありませんでした。国際原子力機関(IAEA)報道官は同年十二月、疑惑の証拠を示していないと米国を批判しました。
ところがブッシュ大統領は、翌〇三年一月末の一般教書演説で、これをイラクのWMD開発の証拠として掲げました。重大問題だと感じたウィルソン元大使は、この虚偽情報を撤回するよう政府当局者に求めました。それが聞き入れられなかったため、同氏は七月六日付のニューヨーク・タイムズ紙に、政府が情報操作によりイラク戦争に突入したと批判する寄稿をしました。
ウィルソン氏への「反撃」として政権側が踏み切ったのが、同氏の妻がCIA秘密工作員であることのメディアへの漏えいでした。
〇三年六月十二日、ワシントン・ポストは、ウラン問題の調査でウィルソン氏が前年ニジェールに派遣されたと暴露しました。その同じ日に、チェイニー氏が側近のリビー氏に、ウィルソン夫人はCIA工作員だと明かしました。それをリビー氏らは数人の記者に漏えいしたのです。
■中枢握る集団
ニジェール・ウラン問題は、虚偽情報で米国を戦争に突入させる大掛かりな情報操作の一部にすぎません。
〇二年にイラク戦争の準備を本格化させるさい、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官や、ウルフォウィッツ国防副長官(現・世銀総裁)らのネオコン(新保守主義者)らが着手したのは、CIAなど多くの情報機関を飛び越え、開戦に有利な情報操作をする特別な組織の設置でした。
国防総省にファイス国防次官(当時)らを中心とする「特別計画室」が設置されたことは、すでに知られています。元CIA分析官のグッドマン国際政策センター上級研究員らによると、ホワイトハウスにも同じ目的の「イラク・グループ」が、カード現大統領首席補佐官やハドリー現大統領補佐官を中心にして設けられました。
CIA漏えい事件は、虚偽情報による戦争突入が、ブッシュ政権の中枢を動かす一握りの集団により強行された仕掛けに光をあてるものとなっています。
(坂口明)