2005年11月8日(火)「しんぶん赤旗」
東京国際映画祭の映画会議から
観客が支持 政府が支える
韓国映画成功の背景と示唆
東京国際映画祭にあわせて、文化庁主催で映画振興に関する一連の会議が開かれました。それぞれ韓国の映画人がゲストとして発言し、参加者の注目を集めました。
一人は、「世界映画人会議」(十月二十三日)に招かれた、韓国映画振興委員会(KOFIC)のアン・ジョンスク委員長です。アン委員長は、映画振興をはかる立場から韓国映画成功の背景を語りました。
アン委員長がまず強調したのは、映画振興を「ハリウッドと違い、国外市場を視野に入れていたわけではなく、まず国内の観客に楽しんでもらう」ようにしたことです。会議で、日本側がいかに国外で売り込むかを強調しただけに、予想外の発言ともいえました。
■クォータ制生かす民間監視団体発足
そのうえでアン委員長は、韓国映画が国内で“復活”した歴史を紹介しました。実は、韓国映画の国内でのシェアは、一九九三年には15・6%にすぎず、大半をハリウッド映画が占めていました。それが二〇〇四年には50%をこえる急成長をとげたのです。
その背景として、アン委員長は、韓国の民主化をあげました。もともと韓国には自国映画の上映を義務づけるスクリーンクォータ制がありましたが、軍事政権下では機能していなかったといいます。八〇年代以降の民主化運動のなかで生まれた新たな作品を観客が支持し、かつスクリーンクォータ制を機能させるための民間監視団体がつくられました。
制度が存在するだけでなく、それをいかす映画人と国民の運動があり、民主化後の国の支援とあいまって力を発揮したといえます。
■支援受けながらも自律的映画祭運営
もう一人は、「文化庁コミュニティシネマ・コンベンション」(十月二十七日)に招かれた、釜山国際映画祭ディレクターのキム・ドンホーさんです。キム・ディレクターは、映画祭の目標として、アジアの若い監督を発掘することと、韓国映画を紹介することをあげました。そして、政府や自治体の支援を受けるが、「運営は徹底的に自律的に行っており、これが最も大切」と強調しました。
両者の発言とも、自国映画の振興を映画人自らがすすめ、それを観客が支持し、政府が支えるという点が共通していました。
二人は、日本の映画振興への支援について、控えめな表現ながら語りました。アン委員長は、「もっと日本のすばらしい作品を日本の観客にみてもらうような支援が必要」と指摘。キム・ディレクターは、官公庁の思惑だけですすめるのではなく、「映画団体の自律的な、独立性を生かした運営を配慮するのが正しい方向だと思う」と語りました。自国映画振興を成功させてきた発言だけに説得力があり、日本映画支援のあり方を考えるうえで示唆を与えるものでした。
(辻慎一 党学術・文化委員会事務局次長)