2005年11月18日(金)「しんぶん赤旗」
主張
文化施設の統合
効率化だけでは衰退まねく
平山郁夫東京芸術大学学長、高階秀爾(たかしなしゅうじ)大原美術館館長ら、著名な文化人・識者が、国立美術館・博物館・文化財研究所を統合させようとする政府の動きを批判する声明を発表し、社会的注目を集めました。
■「構造改革」路線の一環
政府は、この数年、国立美術館などを国立機関から独立行政法人という組織に変え、地方においても、「公の施設」への企業参入をはかる指定管理者制度を導入し、社会教育施設である図書館、美術館や、文化ホールにも適用させてきました。
さらに、来年度以降、目的や歴史も異なる国立美術館・博物館などを統廃合し、また「市場化テスト」の適用で、国立美術館や国立劇場の維持管理の民間委託まで検討しようとしています。
いずれも、「官から民へ」、「競争原理の導入」というスローガンで財界が要望し、小泉内閣がおしすすめる国民サービス切りすての「構造改革」路線の一環であり、文化分野をその一つの標的にしているのです。
先の声明は、「効率性追求による文化芸術の衰退を危惧する」と題し、国・地方自治体が他分野と同じように、文化にも「一律に効率性を追求すること」は文化の衰退につながると指摘しています。こうした危ぐと批判は、図書館関係者や文化団体など、広く文化分野からあがるようになっています。
これまで国立美術館などがすすめてきた、美術品や映画フィルムなどの文化遺産を系統的に収集・保存する事業は、国民の鑑賞活動を保障し、後世の文化創造を支えるうえで欠くことができません。また、国立劇場は、すぐれた舞台芸術を国民に提供するだけでなく、舞台活動の場を保障し、次代を担う人材を養成する場として重要になっています。
こうした活動は、目先の効率性やもうけだけを基準に考えてみれば、成り立ち難いものです。だから国際的に文化活動の条件整備は、国・地方の責務とされてきました。
もちろん、文化活動は文化をつくり楽しみたいという、自主的なとりくみが基本ですが、だからといって、国・地方自治体が何もしなくてもよいということにはなりません。
日本では、戦後、図書館法、博物館法が制定され、私立施設を応援するとともに、公立施設が資料収集、調査、研究にあたるため、専門職員を配置し、広く国民に提供することが定められました。さらに、二〇〇一年に制定された文化芸術振興基本法は、文化をつくり楽しむことが国民の権利だとし、その環境整備を国・地方自治体に求めています。
こうしたなかで、たとえば、映画フィルムについて、文化庁の検討会が、映画資料を収集する諸外国の公的なフィルムアーカイブに比べて、日本のフィルムセンターが「充実していない」と指摘し、東京国立近代美術館の付属施設という位置づけから独立させて充実させるべきだという報告を、昨年出したばかりです。
■文化の発展のために
小泉政権がすすめる「構造改革」路線は、こうした流れに逆行し、文化活動と国民の文化を楽しむ権利への公的責任を放棄し、文化の衰退につながるものです。小泉政権の「構造改革」路線を打ち破ることが文化の発展のために求められています。
統廃合や効率化の押しつけではなく、文化行政の充実こそ必要です。そのためにもヨーロッパ諸国の数分の一にすぎない文化庁予算を充実させ、文化関係者の声に耳を傾けることが大事です。