2006年1月11日(水)「しんぶん赤旗」
首相の靖国参拝合理化
国内外で批判の包囲網
戦争観に異議 外交を懸念
小泉純一郎首相は、四日の年頭会見で自らの靖国参拝について「外国の政府が心の問題に対しけしからんということが理解できない」と開き直り、侵略戦争正当化の逆流を勢いづかせています。しかし、言論界、経済界はもとより、首相が最大のよりどころとする米政府からも、中韓関係悪化を懸念する声が広がるなど、靖国派を包囲する声が広がっています。
□新聞界
首相の会見に対しては、「朝日」五日付社説が「自ら火種を持ち込んでおきながら相手を批判し、『外交問題にしない方がいい』と説くのはいかにも身勝手である」と批判。地方紙でも「歴史認識の問題を日本の努力で解決することが必要だ」(高知新聞五日付)などの声があがっています。
『論座』二月号では、昨年六月四日の社説で「『A級戦犯』が合祀(ごうし)されている靖国神社に、(首相が)参拝すべきではない」と表明した「読売」の渡辺恒雄主筆(会長)が登場。「軍国主義をあおり、礼賛する展示品を並べた博物館(遊就館)を、靖国神社が経営しているわけだ。そんなところに首相が参拝するのはおかしい」と同神社の戦争観を問題視しています。
そして、「国際関係も正常化するために、日本がちゃんとした侵略の歴史というものを検証して、『事実、あれは侵略戦争であった』という認識を確定し、国民の大多数がそれを共有する」ことの重要性を指摘しています。
□外交官
外交官からも懸念の声があがっています。外務省編集協力の『外交フォーラム』一月号で、栗山尚一元駐米大使が「和解―日本外交の課題 反省を行動で示す努力を」との論文を発表。「総理の靖国神社参拝を支持できないのは、同神社の歴史観が、二度の総理談話に示されている政府の認識と相容れないからである」とのべ、「これは、同神社の博物館(遊就館)の展示品の説明文や出版物を読めば、誰でも気付くことである」としています。
また、首相参拝について「同神社の『大東亜戦争』肯定の歴史観を共有しているとの印象を与える結果となりかねない」と指摘。「過去と正面から向き合う勇気と反省を忘れない努力」を日本外交の課題としてあげています。
首相補佐官を務めたこともある外交評論家の岡本行夫氏は『国際問題』〇五年十二月号で、「靖国神社がどういうところかと言えば、遊就館に行けばすぐわかります」と指摘。「そこには、日本は五族共和で満州国自立といういいことをやった。ところが『現在は中国が支配し、東北部と称している』という展示説明です。靖国神社の主観に基づけば、満州はまだ日本のものなんですかね」とのべ、靖国史観がいかに非常識で受け入れられないものかを告発しています。
□経済界
経済界からは、奥田碩日本経団連会長が新年の記者会見で、小泉政権のアジア外交のあり方について「できれば変えていただきたい」と語るなど、懸念の声が広がっています。
品川正治・経済同友会終身幹事は『世界』一月号で「(中国と)日本政府との関係で、例外的といっていいくらい、トップの信頼関係をなくしています。…これは双方に責任があるというより、日本側に大きな責任がある」とのべ、韓国や中国からみた靖国参拝の問題点をあげています。
■米政権内でも“参拝反対論”
小泉首相の靖国神社参拝に対する海外からの懸念表明や批判の動きも続いています。
特にアメリカの議会や政権内部からの批判の声は注目すべきです。
「毎日」一日付は一面で、「昨年11月16日の日米首脳会談でも、米側が最も時間を割いたのは中国問題だった」と報じました。
同紙はその背景として「米政府は昨年10月17日の首相の靖国参拝以来、日中関係の修復が絶望的になったとみて外交ルートを通じて日本政府に『懸念(concern)』を伝えてきていた。ところが一向に改善の兆しがないことから、11月のブッシュ大統領の東アジア訪問での一連の発言につながった」と解説。大統領訪問に同行したマイケル・グリーン前米国家安全保障会議アジア上級部長の「対処方法の一つは小泉純一郎首相が靖国参拝をやめることだろう」という発言を「米政府内にくすぶる参拝反対論」と紹介しました。
また、紛争予防のための政策提言をしている「国際危機グループ」(ICG、本部・ブリュッセル)は、「北東アジアの紛争の底流」と題する報告書を昨年十二月提出。この中で、「小泉首相の靖国神社参拝と右翼グループによる歴史解釈を修正する歴史教科書作成の試みは中韓両国の警戒心を刺激し、日本は第二次世界大戦での犯罪を反省していないとの感情を増幅させた」と批判しています。
アメリカの新聞でも、「小泉首相は主要な戦犯をまつる靖国神社に参拝し、ナショナリズムの再来を思わせる」(ボストン・グローブ紙〇五年十二月五日付)など靖国参拝批判がやんでいません。