2006年1月26日(木)「しんぶん赤旗」
市田書記局長の代表質問
参院本会議
日本共産党の市田忠義書記局長が二十五日の参院本会議でおこなった代表質問(大要)は次の通りです。
私は日本共産党を代表して小泉総理に質問をいたします。
小泉内閣が発足して四年九カ月、自民党政治の危機とゆきづまりは、外交でも、内政でもかつてない深刻な段階をむかえています。
■靖国問題で問われているのは「心」ではなく侵略戦争美化
まず、外交の問題であります。靖国問題にしぼってお聞きします。
小泉総理のもとで、日本外交の孤立と破たんは一段と深刻になりました。その原因は、総理が靖国神社への参拝を五年連続強行したことにあります。内外からの批判にたいしてあなたは、「心の問題」であり、批判するのは「理解できない」といいました。しかし、いま問われているのは、首相の「心」ではありません。参拝という行為そのものであり、それが客観的に持っている政治的意味であります。
靖国神社の歴史観、戦争観、それは、過去の日本の侵略戦争を、アジア解放の正義の戦争として正当化するという立場であります。総理の靖国参拝は、これに日本政府が公認のお墨付きを与えることになる、そういう行動が今日の世界において許されるか。ここに問題の核心があります。
戦後の国際秩序は、かつて日本、ドイツ、イタリアがおこなった戦争が、犯罪的な侵略戦争であったという共通の認識にたち、二度とこうした戦争を許さないという決意のうえになりたっています。
だからこそ、中国や韓国だけでなく小泉総理が頼みとするアメリカからも、総理の靖国参拝への懸念と批判が公然とよせられたのであります。ブッシュ大統領は、対日戦勝六十周年の記念演説のなかで、「アジア解放のための戦争」という侵略戦争正当化論をきびしく批判しました。首相の連続参拝にあたって、米下院の外交委員長からは、駐米日本大使あてに、「遺憾」の意をつたえる書簡が送られてきました。あなたがどういいつくろうとも、これは明白な客観的事実であります。それが「理解できない」というのなら、国際政治に参加する資格すら問われることになるではありませんか。
総理は国会でのわが党の追及に対して「靖国神社の考えと、政府の考えは違う」と答弁されました。それが本心なら、日本外交を立て直すためにも、そのことを行動で示すべきではありませんか。
■ライブドア事件生んだモラルとルール破壊の「構造改革」路線
次に内政についてであります。
小泉内閣が推進してきた「構造改革」路線、規制緩和万能路線は、日本社会をどう変えたか。総理が言う「自信と誇りに満ちた社会」どころか、「不安に満ちたモラルなき社会、ルールなき社会」になったというのが多くの国民の実感であります。
そのことを象徴的に示したのが、最近起こったライブドア事件と耐震強度偽装事件であります。
自らの著書で「人の心はお金で買える」「人間を動かすのはお金」と豪語し、その言葉どおりにルールを踏みにじってウソの情報を流し、粉飾決算をおこなった疑いがもたれているライブドアの堀江氏。安倍官房長官が「堀江さんが仕事で成功してきたというのは小泉さんの改革の成果、規制緩和の成果」といい、竹中総務大臣は自民党の要請で選挙の応援に行き「小泉首相、ホリエモン、私がスクラムを組みます」とまでいいました。文字通り弱肉強食の「小泉政治」の申し子でした。彼らが駆使した、株式分割や株式交換などの、金が金を生む手口は、商法「改正」などによって与えられました。モラルとルール破壊を促進するとともに、堀江氏を天まで持ち上げ、国政にまで関与させようとした責任を、総理はどのように感じておられますか。何の責任も一切ないと考えておられるのか、“堀江氏の問題と選挙での応援は別だ”などとごまかさないで、きちんとお答えください。
■耐震偽装の根底には命と安全をないがしろにする「規制緩和」
次に、耐震強度偽装事件についてです。事件に直接かかわった売り主、建築士、検査機関など関係者の責任が重大であることは言うまでもありません。
しかし問題の根底には、九八年の建築基準法改悪で、建築確認という国民の命にかかわる重大な仕事を民間任せにしてしまった「規制緩和」があったことは明白であります。そしてそのことが、「客を増やすためには検査を甘く」「バレなければ何をやってもかまわない」というモラルの退廃までひき起こしたのであります。
「民間でやれることは民間で」という掛け声で、国民の命と安全までないがしろにしてきた小泉内閣の責任をあなたはどう考えておられますか。
■直ちにやるべき被害者救済と再発防止策
いま、被害者救済と再発防止の対策が緊急に求められています。
被害者救済のためには、ヒューザーなど関係者の第一義的責任は当然であります。同時に、住宅ローンを貸し付けた金融機関、ゼネコン、デベロッパーなど不動産業界の負担と協力で、被害者の負担を軽減する。その際、不足する費用については政府が補償する。耐震診断、改修への助成制度を改善・拡充し、希望するどのマンションでも耐震診断、改修がおこなえるようにする。
再発防止のために、建築基準法の抜本的見直し、建築士が建築主や施工主の言いなりにならないよう建築士法などを改正する。民間まかせの検査・確認体制を見直し、行政が検査・確認業務に実質的な責任を負えるよう体制を強化する。
私は、少なくとも以上のべた措置はただちに講じられるべきだと考えますが、総理いかがですか。
■非正規雇用増大は働く人を苦しめ日本の将来をも危うくする
「金の亡者」が跋扈(ばっこ)する一方、法律で禁止されていた派遣や請負などを、大幅に認めた労働法制の規制緩和が、この間相次いで強行されました。そのために、正社員の道を奪われ、派遣や請負、パート、アルバイトという不安定で低賃金、きわめて劣悪な労働条件を押し付けられている国民が激増しています。いまや労働者派遣会社は一万六千八百社、二百三十六万人、非正規雇用は働く人の実に三人に一人、若者の二人に一人に達しています。その平均年収は民間研究機関の調査によるとわずか百三十三万円という驚くべき低さであります。これでも総理は格差がないとおっしゃるのですか。
労働の規制緩和による非正規雇用の増大は、いま働く人々を苦しめているだけではありません。日本の将来をも危うくしています。それは、技能の継承を困難にしているとともに、少子化の大きな原因のひとつにもなっているからであります。労働政策研究・研修機構の調査によると、結婚している男性の割合は、正社員の場合は34・7%なのに、非正規雇用者は14・8%と半分にもいたりません。収入でみると、二十五歳から二十九歳までの男性の場合、年収一千万円以上の人は七割に達していますが、四百万円台では43・9%、非正規労働者の平均年収に近い百四十九万円以下では15・3%でしかありません。子どもを産み育てるどころか、経済的理由で結婚すらできないという異常な事態が広がっています。
日本社会の前途を真剣に考えるなら、いっときも放置できない問題であります。規制緩和万能路線を脱して、大企業のわがまま勝手なリストラ、野放しの派遣や請負を厳しく規制し、すべての人が人間として正当に扱われる安定した雇用を作り出すために、政府が先頭に立つ。これこそ緊急の、ぬきさしならない課題だとは考えませんか。
■日本共産党は暮らしへの攻撃に社会的連帯と反撃でこたえる
小泉内閣が推し進めてきた「構造改革」が日本社会をどれだけゆがんだものにしてきたか。今述べたのはその一端にすぎません。ルールなき資本主義、極端な大企業中心主義は、貧困と社会的格差の新たな広がり、庶民増税と社会保障の連続改悪、少子化の進行など日本経済と国民生活の矛盾をあらゆる分野で深刻にしています。それは人間がともに支えあう社会のありようを否定し、弱肉強食の寒々とした社会を作り出しつつあります。
日本共産党は、人間らしい暮らしの基盤を破壊する攻撃に対して、社会的連帯と社会的反撃をもってこたえる、そのたたかいの先頭にたって奮闘する決意を述べて質問を終わります。
■市田書記局長への小泉首相の答弁(要旨)
市田書記局長の代表質問にたいする小泉純一郎首相の答弁(要旨)は次のとおりです。
一、靖国参拝問題 靖国神社に参拝するのは戦争の反省をふまえて、二度と戦争を起こしてはならない、そして戦没者にたいする哀悼の念を表する、現在の社会というのはわれわれ生きている人間だけで成り立っているのではない、尊い先人の犠牲の上に成り立っているのだということを常に忘れてはならない、ということから靖国神社に参拝しているのであって、私の参拝は靖国神社がどのような主張を持っているか、それと一致しているかということとは別の問題だ。
国際社会の認識だが、私は日本においても、他の人、国会議員等、ほかの人を誘って靖国神社に参拝したことは一度もない。これは内閣総理大臣である小泉純一郎が参拝しているが、小泉純一郎も一人の人間だ。心の問題、精神の自由はこれを侵してはならないと日本国憲法でも認めている。国際社会が批判しているというが、批判しているのは中国と韓国だけだ。どこの国の首相も私の靖国神社参拝に、批判したことは一度もない。ブッシュ大統領が批判しているというが、ブッシュ大統領も批判したことは一度もない。
一、ライブドア・堀江容疑者を持ち上げた問題 堀江氏は現在、捜査当局による捜査が行われているところであり、今後の状況を見守っていきたい。この件と、昨年の衆議院選挙において自民党幹部などが堀江氏を応援したこととは、別の問題であると考える。
一、耐震強度偽装事件 建築確認検査制度の民間開放については、「民間にできることは民間に」という方向が間違っているとは思っていない。
危険な分譲マンションの居住者について、その安全と居住の安定を確保することは、緊急に取り組むべき最優先の課題だ。売り主である建築主が、契約上の責任を誠実に履行する見通しがまったく立っていない現状では、売り主に対する徹底した責任追及を前提に、類似の財政措置との均衡にも配慮したうえで、居住者に対する公的な支援を行う必要がある。
支援措置は補償として実施するものではない。
建築物の耐震診断、および耐震改修に対する支援措置を拡充して、地方公共団体がさまざまな要望に応じて、耐震化を促進できるよう支援していく。
建築基準法や建築士法などの制度について、構造計算書等の審査の徹底や、民間検査機関に対する指導・監督の強化、危険な建築物の設計者等に対する罰則の強化などの観点から、再発防止のための見直しを行っているところであり、早急に対応が必要なものについて、今国会において法律の改正を行う。
一、労働法制の規制緩和について 労働者派遣法など労働法制に関する規制改革は、労働者の保護にも留意しつつ、雇用機会の確保、派遣先での直接雇用の実現など、一定の効果をあげている。
所得の格差が広がっているとの指摘があるが、統計データからは、所得、資産の格差についても、明確な格差の拡大は確認されないという報告を受けている。
他方で、将来の格差拡大につながる恐れのあるフリーター、ニート等、若年層の非正規化や未就業の増加などの動きには、今後も注意が必要だ。